「つーか、何やるんだよ」


部室で丸くなっている中、宍戸が尋ねる。
それに適切な答えを返す人物はいなく、


「確かに……思えば、俺たちが考えるのは部活の出し物だけど……はっきり言って、全部決め終わったしなぁ」


向日が腕を組んで、首を捻る。
確かに、役柄も決め、メニューも決め……あと残るのは前日の飾り付けだけです。
メニューを作るのは樺地や滝の管轄ですから、料理の練習も必要ありませんしね。


「意外と楽やんな。喫茶店て」
「そうですね」
「あ!そういえば、皆のクラスの出し物ってなに?」


ここで麻燐は興味津津の様子で聞く。
昨日の時点でクラスの出し物の決定期限でしたからね。


「ふっ、そんなに俺様の出し物が気になるのか」


いえ、麻燐ははっきり「皆の」と言ったんですが……。
どうやら跡部には関係がないようです。


「うん、教えて!」


それでも素直に知りたいと笑顔をきらきらさせる麻燐。
その様子がさらに跡部を調子に乗らせますが……まぁ、本人たちが楽しそうなので良しとしましょう。


「俺様のクラスは写真館だぜ」
「へー。意外と地味なんだな」
「それがながっくん。全然地味ちゃうねん」
「え?」


得意気に語りだす跡部の後ろで、忍足が溜息をつく。


「写真の対象が……全部跡部やねん」
「はぁ!?」


跡部と同じクラスの忍足の言葉に、部室内の空気が一転する。


「えっ!もしかして、景ちゃん先輩がモデルさんをしたの?」
「当たり前だ。俺様は需要が高いんだ」
「……よく、平然とそんなことが言えるな」
「……俺、この人の上にいけるんだろうか」


宍戸が唖然とし、日吉は自分の向かうべき道を疑い始めました。
そんなことも気にせず、跡部は鼻を高くしています。


「ていうか、跡部のことだからもっと派手なことやると思ってたC〜」
「ふっ、ジローも甘いな。自分の教室を、自分自身で占拠する……エクセレントじゃねぇか」
「何を言ってるんですかこの人」
「鳳、あかんて。仮にも部長に何て事を言うんや」


今まで比較的慕っていた鳳までもが、指を差す始末。
どうやら今の跡部は完全に自分酔いしているみたいです。


「それにな、跡部もただ目立ちたいだけちゃうねん。展覧会みたいにしとけば、暇な時間増えるやろ?その時間使て、麻燐ちゃんを独り占めしよう思うとるんや」
「っ!?お、忍足、てめぇ何をっ……」
「事実やろ?せやないと、跡部がこんなことする理由がわからんわ」


淡々と分析する忍足に焦る跡部。珍しいですが、図星なのでしょう。
プライドがあるため表立って肯定はしないようですが、忍足の言葉を聞いてその場の全員が納得した。


「へぇ、そうだったんですか。跡部さんもそんなこと考えてるんですね」
「う、うるせえ!宍戸のクラスはどうなんだよ!なぁ樺地!」
「ウス」
「ええ!?急に俺!?」


八つ当たりかのように突然振られた宍戸は、目を丸くして驚く。
そして麻燐の興味も宍戸へと逸れた。


「麻燐も気になる!りょう先輩のクラスは何をやるの?」
「あー……俺のクラスは、売店だよ」
「そうなの?楽しそう!」
「へえ、何を売ってるんですか?」


鳳も話に混ざり、宍戸も説明を始める。


「売るっつっても、たこ焼きとか団子とか、そんなもんだけどな」
「たこ焼き!麻燐、たこ焼き好き!」
「へぇ、そうなのか?」


満面の笑顔になる麻燐を見て、宍戸は意外そうに言った。


「うん!絶対行くー!」
「マジか。それは嬉しいな。じゃあ麻燐が来たら、おまけに団子1本つけてやるよ」
「ほんとうに?やったあ!りょう先輩大好き!」
「なっ!?」


嬉しさのあまり、宍戸に抱きついた麻燐。
それにも驚いたが、可愛らしく頭をぐりぐり押しつけながらの抱擁に宍戸はどう反応していいのか分からなかった。


「くそくそ宍戸!麻燐に何すんだよ!」
「いや、されてんの俺なんだけど!」


向日が宍戸から麻燐を引き剥がし、麻燐の目線に立った。


「いいか、麻燐」
「あの、向日さん」
「なんだよ鳳」
「……しゃがむ必要……あるんですか?」
「そんな哀れみの込められた目で見るな!」


わざわざ目線を合わせにいったのが裏目に出たようです。
鬼のような形相で鳳に言い、麻燐に向き直る。


「こ、こほん……麻燐、そんな簡単に抱きついたりしたらだめだぜ」
「ほぇ?どうして?」
「あいつは宍戸だからな。大変なことになるんだよ」
「おい、それはどういう意味だよ!」


宍戸だから、というワードが気になり宍戸が吠える。
だが向日は意地悪そうな笑顔を作るだけで何も答えなかった。
このテニス部では、宍戸=純情の代名詞となっているようです。
どうやら麻燐も理解しないままに納得したのか、


「わかった!麻燐、りょう先輩には気をつける!」


そう答えました。


「な、なんだ……俺が悪いのか……?」
「宍戸は気にせんでもええよ」
「そうです。宍戸さんが悪いんじゃありませんから」


慰められつつも、この二人の言葉は信用できないと警戒する宍戸。
氷帝テニス部の絆も崩壊寸前です。


「それより、向日やジローのところはどうなんだよ」


その空気を察したのか、跡部が話題を変える。
そういうところは部長らしいですね。
自分から完全に話題が逸れたため、余裕を持ち始めたのでしょう。


「俺?俺らのところは……」
「一言で言うと、縁日かなー」
「縁日?」


芥川の言葉に、麻燐が不思議そうに聞き返した。


「そうだよ〜。水風船をすくったり、射的をしたり……教室の中で、色んなミニゲームをするんだC〜」
「へぇ、だから縁日ですか。楽しそうですね」
「俺たちが企画したんだから、当り前だろ!」
「なんや、岳人らの考えか」
「もち!そこで、麻燐に楽しんでもらおうと思ってな」


そう言いながら、麻燐の頭を撫でる向日。


「麻燐のために?嬉しいっ!」
「あ、俺も考えたんだからね〜」
「ジロ先輩も、ありがとうっ」
「ふん……麻燐と縁日か……悪くないな」
「おい、なんで一緒に行く予定でいるんだよ」


腕を組んで遠くを見る跡部。
それを怪訝に思いながらもツッコむ宍戸。


「絶対楽しませてあげるから、楽しみにしててねー、麻燐!」
「うん!今からすごく楽しみっ!」


そう言う麻燐の顔は、本当に楽しみなのか、本番が待ちきれないと言いたげでした。
まだまだ、学園祭の話で盛り上がりそうですね。