「じゃあ次は、俺いきます」 にこにこ顔の鳳が麻燐の肩に手を置いて言う。 麻燐も楽しんでいるのか、付属として持っている先端に星のついた杖を振っている。 「このままの麻燐ちゃんを見るのもいいけど、それじゃあ進まないですからね」 「そうだな。行ってこい」 「今度はチョタ先輩?」 「そうだよ。とびきり可愛くしてあげるからね」 と言っても、させるのはコスプレですからね。 とりあえず試着室に入る。 先程の行動を心に留めている宍戸は心配そうな表情で試着室を見つめる。 甘い言葉が似合わない人ですからね。 「わっ!なんかフリフリだっ!」 「うん。麻燐ちゃん、フリルとか好きでしょ?」 「うん!大好き!」 どうやら麻燐の趣味まで手の内みたいですね。 そんな会話の後、カーテンが開く。 「やっぱり王道、メイド服がいいと思ったんですよ」 「おかえりなさいませー」 言いながらお辞儀をしてみる麻燐。 本人も楽しそうで何よりです。 メイド服と言っても、榊監督が用意したようなスカート丈が短くて趣味丸出しのような感じではありません。 スカート丈は膝下という控えめで、露出も少ないです。ところどころ可愛らしさはあるものの、全体で見ると上品な従者の印象が強いです。 フリフリのエプロンを着た小さなメイドさんを目の前にして、 「やばっ!ちょ、これ超やばいんちゃう!?」 「静かにしてください忍足先輩」 興奮する忍足の隣に居た日吉は嫌そうな顔で忍足を見る。 そんな日吉に向かって、 「ねぇ日吉、どう思う?可愛いと思わない?」 「なっ……」 「わか先輩、麻燐に似合う?」 「……い、いいんじゃないのか……?」 鳳は何故か日吉と絡もうとしますね。 そして麻燐も日吉に近づき、感想を聞く。 日吉は口ではそう言ってますが、目が麻燐を直視できず泳いでます。 表情は素直ですね。 「よかった。わざわざ家から持ってきた甲斐があります」 「ってこれ持参かよ!?」 「はい。俺の家にいるメイドさんの服を借りてきちゃいました」 驚く向日に笑顔で対応する鳳。 「なんだ、俺様の家のメイドは背中にリボンが付いているぞ」 「あ、それも可愛いですね。でも俺の家、結構シンプルな作りなんですよ」 その話題を掘り下げることができるのは跡部のみ。 他は呆れたようにお互いに顔を見合わせます。 「は、話についていけねえ……」 「構うな宍戸、俺たちが普通なんだ」 「E〜なぁ!麻燐ちゃんに俺のメイドさんになって欲しいC〜」 「ジロ先輩のお家のお手伝いをするの?」 「「「しなくていい!」」」 芥川の言葉を本気でとってしまいそうな麻燐に向かい、全員が答えました。 芥川はぷうと頬を膨らます。 「1日くらいEーじゃん」 「だめだ。樺地、とりあえず書いておけ」 「ウス」 樺地がホワイトボードに向かう。 そして次、 「あと披露してないのは誰だ?」 「披露って……着てるのは麻燐だろ」 「なんだ宍戸、文句があるのか?じゃあ次はお前だ」 「っ!?お、横暴だ!」 「いつかは来る時です。諦めてください」 「っ……!(お前だってまだだろうがっ)」 跡部に指名され、日吉に後押しされたらどうにもなりません。 宍戸は渋々と麻燐に近寄る。 「じ……じゃあ、行くか」 「うん!」 「っ!?て、てて手!」 「?」 メイド服姿の麻燐に手を組まれ、心臓が跳ねる宍戸。 どうやら恰好が違うと全ての調子が狂ってしまうみたいです。 「あそこまで純情なのは逆に天然物やと思うんや」 「そこが宍戸さんの良いところなんです」 忍足と鳳が呟く。鳳はほっこりしています。 そんな言葉なんて耳に入らず、宍戸は脳内をぐるぐるさせながら試着室に入った。 「亮先輩?大丈夫?」 「あ、ああ……気にするな」 衣装はちゃんと決めてあるんでしょうか。 少し心配そうな顔をしているメンバーも居ましたが、二人が試着室から出てくるのを待つ。 「あ、そうだ!亮先輩、髪の毛結って!」 「え?」 「その方が、きっとこのお洋服には合うよ!」 「そうか…?わ、わかった」 「……一体、何の衣装なんだ……?」 「楽しみやなぁ」 カーテン越しの会話。 この手の話題では宍戸に主導権はないようですね。 そして、 「完成ーー!」 「麻燐ちゃん……!」 「眼鏡っ娘萌えーーー!」 「ちょっと忍足!見えないC!」 鳳が感激し、忍足が興奮し、芥川が身を乗り出します。 麻燐の衣装は、胸元にフリルのあるカットソーに、膝上丈の黒いタイトなスカートスーツ。 その上から白衣を羽織っています。 さらに髪は緩いふたつの三つ編みに、オプションで眼鏡をかけています。 「女教師!専門科目化学ってところか?」 「宍戸先輩流石です!俺、一生ついていきます!」 「き、今日の授業に偶然化学があっただけだ……!」 言い訳がましく言う宍戸。 大丈夫ですよ、他の皆さんよりはマシな選択です。 身近な衣装ですからね。麻燐の思うスーツと似たところがあります。 「似合う?麻燐、大人の女の人に見える?」 「充分すぎるくらいだぜ。なんか、麻燐じゃねーみたい」 「ほんと?嬉しいがっくん先輩!」 「麻燐、麻燐〜怒ってみて?」 「怒る……?えーと………めっ!」 「「「(卑怯なくらい可愛い……!)」」」 眼鏡に手を支え、怒る麻燐の姿は皆さんの心臓に矢ではなく大砲を打ち込みました。 着せた本人の宍戸も、口元を押さえて震えています。 「やばい、俺、Mに目覚めてまいそうやわ……!」 「あれ?忍足ってMじゃなかったの?」 「バリバリのSやで!」 「えむ?えす?」 「麻燐は耳を塞いでろ」 忍足と芥川の会話を聞かさないベく、日吉は麻燐の耳を塞ぐ。 麻燐は首を傾げてその光景を見ている。 「ふっ、俺は好きだぜ。……樺地、追加だ」 「ウス」 どうやら白衣を着て露出度少ないおかげで跡部も好印象ですね。 他はどんな衣装が出てくるのでしょうか。 |