そんな賑やかな昼休みも終わり、放課後を迎えた。 「よし麻燐、行くぞ」 「あ、景ちゃん先輩!」 そしてチャイムと同時にドアを開ける跡部。 1年たちはぎょっとしてそちらを向くが、またか、と溜息をついた。 生徒会長のこのような姿を知っているのはこのクラスの人たちくらいです。 跡部が麻燐を連れて、昨日と同じように演劇部部室へと向かう。 そこにはすでに全員揃っていました。 「お、来たなっ!」 「わあ、皆早いね!」 「うんうん、楽しみで今日1日眠れなかったC〜!」 にっこりと笑顔の芥川が何食わぬ顔で跡部から麻燐を奪う。 「てか、それまじかよ」 「それほど芥川さんの興味をそそってるということですね」 向日と日吉がそれぞれ呟く。 確かに、芥川が居眠りをしないなんて珍しいことこの上ありません。 「ほら跡部、そんなとこで落ち込んでないで早く!」 そうさせたのは麻燐を奪ったあなた本人なんですけどね。 跡部も何とか立ち直り、全員が部室へと入る。 そして、 「よし……じゃあ、誰から行く?」 跡部が樺地を呼び、簡易試着室とホワイトボードを用意したところで、宍戸が問います。 麻燐もその試着室の前でスタンバイ済みです。 「はーい!なら俺からや!」 「「「………」」」 「な、なんや、その目は」 「………まぁいい。やってみろ」 跡部は少し間を空け、告げる。 そして麻燐と同じ目線に立ち、 「いいか、麻燐。嫌だったら嫌だって叫ぶんだぞ。俺たちが忍足を八つ裂きにしてやるから」 「?」 「ちょっ怖っ!そんな危ないこと言わんといてや!」 忍足は内心どきどきしていますが、麻燐を連れて試着室に入ります。 「ほな麻燐ちゃん、これ着てなー」 「うん!分かった!」 「お、やっぱ麻燐ちゃん似合うわー。じゃあ、こっちも付けてみ、ぶふっ」 「……おい、今の音、」 「ああ、鼻血だな」 カーテン越しに聞こえる音。 それはもはや聞き慣れたともいえる音でした。 そして、 「ゆーし先輩どうしたの?お熱?」 「いや、その、何もあらへんよ?ほな、お披露目しよかっ」 微かにティッシュを何枚か取る仕草の音を聞きながら、麻燐の姿が見られないメンバーたちはカーテンを見つめる。 そして、 「じゃじゃーん!やっぱナースさんや!純白の天使……麻燐ちゃんにはぴったりなフレーズやろ!」 「な、ナース……?」 「そうや!ピンクも可愛えと思うたんやけど、麻燐ちゃんの髪色と被るかなーってな」 そう告げた。 そこまで変態趣味を丸出しにしなかった忍足に、周りは珍物を見るような目を向けた。 何にしろ、その純白の天使が鼻血で赤く染まることがなくてよかったです。 「麻燐かわいいーっ!」 「本当?ありがとうっ」 「「「(ちくしょう、可愛い……!)」」」 そしてメンバーも、小さな白衣の天使が目の前にいることで心が和んでいる様子。 「………書け、樺地」 「ウス」 跡部もとりあえず意見は受け入れるのか、ホワイトボードに書かせた。 「め、珍しいな、忍足……お前の事だから、結構きついものを挙げてくるかと……」 「甘いなぁ、宍戸。これでもめっちゃ研究して出した答えやで?」 「……というと?」 「昨日の夜麻燐ちゃんの写真を見とったらなぁ、急にスクール水着を着た麻燐ちゃんを想像してもうたんや」 「「「!?!?」」」 突然のカミングアウトに一同騒然。 麻燐は首を傾げている。 「あの可愛らしい麻燐ちゃんのことや、似合うと思うたんやけど……流石に季節が違うし、何より……」 嫌な予感がする皆さん。 「そんな麻燐ちゃんを想像しただけで昨日やばかったのに、本物を見たら俺の理性がっ!?」 瞬間、鳳のスカッドサーブが忍足の腹部を直撃しました。 のた打ち回る忍足。 どうやら今日の忍足はおかしいみたいです。 「今回だけはナイスだC〜鳳!」 「麻燐ちゃんにこんな話を聞かせるわけにはいきませんからね」 「………俺は、この光景の方が見せられないと思うが」 目の前で、腹部を抑えながら低い唸り声を出す忍足。 それを見ていた日吉の言葉に、跡部は樺地に命令して麻燐の気を引くためにしりとりをさせ始めた。 「だ、大丈夫かよ侑士……」 「心配いりませんよ。本気ではないですし、急所はちゃんと外してあります」 どうやら微妙に位置をずらしたようですね。 普段はノーコンなのにこういう時ばかりは狙い通りにいくみたいですね。 「………さて、忍足は放っておくとして、次の意見を聞いていくぞ」 部長としてその判断でいいのでしょうか。 ですが、必死に痛さを我慢している忍足の姿を見ていると、どうしようもできない気持ちも分かる気がします。 「………さかな」 「なすび!」 「……じ、じゃあ次俺いくぜっ!」 パートナーのあまりに哀れな姿を見たからか、空気を変える為に向日が挙手。 そしてしりとりを中断させ、麻燐を連れて試着室の中へ入る。 その間に、宍戸が忍足を少し遠くの場所へと案内しました。 麻燐の視界に映らないように。 「……わぁ!麻燐、これ見たことあるよ!」 「そうか?結構有名だもんなぁ。あと、これも被って、」 用意ができたのか、カーテンが開く。 そして待っていたメンバーの目に映ったのは、黒い衣装に身を包んだ麻燐の姿。 「魔女っ娘!どう?可愛いだろー」 「まっくろまっくろ!」 向日が自慢げに、麻燐は楽しそうに言う。 小さな二人がはしゃいでいるのはなかなか和みますね。 「流石がっくん!可愛い趣味だC!」 「し、趣味って言うな!けっこうまとも……だろ?」 言いながら恐る恐る跡部を見る。 跡部の機嫌を損ねないかが、衣装選びのポイントの一つでもあります。 向日の視線を感じ取った跡部は、 「ふん、いいだろう。小さなウィッチも、可愛いじゃねえか」 「ウス」 なんだか好印象のようです。 そして無駄に発音が良いのが気になります。 樺地がボードに書くのを見て、向日はほっと一息ついた。 「麻燐ちゃんは何でも似合うね」 「そうかなぁ?」 「うん。その愛らしい魅力も、一つの魔法なのかな」 「!?!?」 鳳が麻燐に目線を合わせ、そう囁く甘い言葉に宍戸が寒気を感じました。 宍戸の傍に居た日吉も眉を寄せる。 「おい鳳、お前どうしたんだ」 「あ、日吉もそう思わない?こんなに小さな魔女がいると思うと、なんだかどきどきするよね」 「(それ以前に、麻燐は魔女ではないんだが……)」 「やべえ。長太郎が麻燐の可愛さにやられちまった……!」 宍戸が後ずさりながら、和みオーラを出している鳳を見つめる。 やられたというか、元々こんな人物だったような気がしますが。 「麻燐ちゃんの魔女っ娘!?そんな萌え、俺が見ずして誰が見るんや!」 そして待ったと言わんばかりに起き上がったのは忍足。 ダウン状態からようやく立ち直ったみたいですね。 「はあっ……この麻燐ちゃんの姿を見るだけで、そんな痛み吹っ飛んだわ!」 「どうせ、痛みの代わりに妙なものを感じてるだけだC〜」 「なっ……俺は純粋に麻燐ちゃんの姿に萌えを感じとるだけや」 「それもなかなか危ない気がしますけどね」 日吉の言う通りです。 何にしろ、忍足が目覚めたというところから、再び衣装決めを再開することになりそうです。 |