「………」 「どうしたんや、麻燐ちゃん」 「あ、侑士先輩……」 「なんかじっとそれ見てるみたいやけど、気になるん?」 「うん……その、がっくん先輩と同じ綺麗な赤色だから、」 向日は自分の名前が出てきたことを察知し、すぐ二人に駆け寄った。 麻燐がじっと見ていて、忍足がそれと言った物。 その正体は、 「って、チャイナドレスぅ!?」 そう、麻燐の言ったように、鮮やかな赤色のチャイナドレスでした。 「これ、そんなにお肌見えないし、可愛いよ?」 「でもよ……チャイナドレスって、確か脚んとこが裂けてたよな」 「そんなん心配いらへん!岳人は女の子に負けんくらい脚が綺麗やから」 「侑士、殴ってもいいか?」 「がっくんは予告してくれるから優しいわ……」 ただそう言った後は本当に殴られていましたが。 でも今のは忍足の発言が悪いですね。 「大丈夫だよ!ほら、これ……」 麻燐がチャイナドレスを向日に見せる。 それは、スカートの丈が足首くらいまであり、スリットがあるのは膝小僧の上くらいまで。 「あー……たしかに、これはあんまり見えねえな」 「でしょ?だから麻燐、あっちじゃなくてこっちにしたの!」 「あっち……?」 麻燐がそう言った先には、これとは色違いのチャイナドレス。 丈は膝上と短く、裂けているのもギリギリアウトくらいな部分。 向日は冷や汗を流した。 「そ、そうだな……。こっちの方が何倍も安心だな」 「でしょ!絶対に似合うよ!」 向日は麻燐から衣装を受け取る。 どうやらそれで決定のようです。 「よかったですね。向日さんのサイズに合う服があって」 「お前、久しぶりに喋ったと思ったら俺を傷つけにきたのかよ」 「いえ別に」 日吉はそれだけ言って傍を離れた。 向日は頭を掻いて溜息をついた。 「で、ジローは衣装決めたのかよ」 そして芥川を見る。 「うーんと、ちょっと気になる衣装があって」 「え!どんなのどんなの〜?」 芥川の笑顔に、麻燐も興味深そうに近寄った。 向日も気になるみたいで、さらに聞く。 「どれだ?」 「へへー、これ!」 じゃじゃーんと芥川が見せたのは、赤色と白色の配色が印象的な巫女さんの服。 「へえ、ジローもなかなか面白いもん選ぶなぁ」 「麻燐知ってる!これ、神社で神様に仕えている人の服!」 「お、麻燐物知りじゃねえか。偉いな」 「えへへー」 さり気なく麻燐の頭を触る跡部。 あなたも恥がなくなってきましたね。 「でも、どうしてこれなんだよ」 「だって、可愛いじゃん〜」 「……ジローらしいな」 にこにこと楽しそうに笑う芥川を見て、宍戸も困ったように笑った。 「ほら、これもついてるC!」 「へえ。小道具までちゃんとあるんですね」 日吉が芥川が持っている大幣を見て呟く。 「面白いでしょ〜」 芥川も楽しそうに、大幣を振り回す。 先についている白い紙がかすれ、カサカサと音が鳴る。 「わぁ、ジロ先輩それかっこいい!」 「でしょ!麻燐も使ってみる?」 「うん!」 そうして芥川から麻燐に大幣が渡り、麻燐も楽しそうに振っている。 「なぁ跡部、」 「なんだ」 「なんか……和まへん?」 「………」 黙っているということは、同意見ということですね。 芥川は麻燐に接している時は優しい先輩なので、遠くから見ているととても微笑ましいです。 「てことは、これでレギュラーは全員決まったのか」 宍戸が呟く。 確かにその通りですね。 でもまだ、皆さんには決めなければならないものがあります。 「麻燐ちゃんの衣装は……どうしましょう」 「……難しいな」 鳳と宍戸は困ったように麻燐を見る。 麻燐のことだから、どれを選んでも喜んで引き受けてくれそうだ。 だが、麻燐が許しても、他に許さない人物がいる。 「さて、ここからが大事だな」 そう、跡部です。 合宿を通し、さらに麻燐保護の腕を挙げたこの人物のチェックを通るなんて、難しいことです。 「あ、そうだ!まだ麻燐の衣装が決まってなかった!」 麻燐も今まで忘れていたのか、気付き声をあげる。 そして、 「麻燐、皆の衣装決めちゃったから、今度は皆が麻燐の衣装決めてほしいな」 そう無邪気な笑顔で言いました。 「ほんまか「分かった。任せろ」……俺の意見は、聞いてくれはりますか?」 「ミジンコ程度にはな」 「ほぼ皆無やん」 仕方ないですよ。 あなたの想像するコスプレは麻燐にとって危険なものばかりですから。 徹底マークされています。 「仕方ねえ……。もう時間がねえから、麻燐のは明日決めるか」 「そうだね、皆のでいっぱい時間使っちゃったもんね」 麻燐も時計を見て言う。 でも満足な時間を過ごせたようで笑っている。 「それと、お前らに明日の放課後までの課題だ」 「「「……?」」」 「麻燐に似合うと思う衣装を考えてこい」 「えっ!」 「お、俺たち全員が!?」 「それぞれ考えてくるのかよ!」 「ああ。そうしたら公平だし、麻燐も選べるだろ」 確かにその通り……。 このまま闇雲に衣装を探しても、意見が食い違い喧嘩になるだけ。 それなら初めから推す衣装を決め、それぞれが意見を言い合い絞っていけばいい、という考え。 他に良い案もなく、跡部の意見で全員が賛成した。 「せっかくこれだけの衣装を見たんだ。一つは思い浮かぶだろ?」 「それもそうだな……」 「いいか、一人一つまでだからな。じゃあ帰るぞ」 そして今日も、麻燐は跡部の長い車で送られて帰りました。 |