「さて、あと決まってないのはどいつだ?」
「俺とー、がっくんだC〜」


手を挙げたのは芥川と向日。
二人も自分では決めようとしないみたいです。
向日は進んで決めるようなことはしないですし、芥川は麻燐に決めてもらおうと思っているみたいです。


「お、なんや、おチビーズが残っとるんかい」
「なっ、何がチビだ!馬鹿変態伊達眼鏡侑士!」
「俺はちょっと小さいだけだC!忍足の変態!」
「こ、今回はがっくんの方がダメージ大きいわ……」


チビは禁句ですからね。
忍足はほろりと涙を拭う。
それにしても変態は必須なんですね。


「そうや、ええこと思いついたわ!」
「却下」
「早っ!景ちゃん決断早いわ!」


聞く耳持たず、という感じですね。
その中、やはり忍足の言葉に耳を貸す人が一人。


「なぁに?ゆうし先輩!」
「麻燐ちゃん……」


にこりと微笑みかける麻燐に忍足は思わず頭を撫でてしまう。
突然のことに小首を傾げる麻燐。
忍足は胸が締め付けられる思いに駆られました。


「そ、その……折角コスプレするのに、華がなさすぎるんじゃないかって思うとったんや」
「華?それなら麻燐ちゃんがいるじゃないですか」


忍足の言葉に鳳が返す。
最もな話ですが、忍足は首を横に振った。


「ちょうど残っとるこの二人は男でも可愛い部類に入るし、女装してみたらどうかなーってな」


にへらと忍足が笑う。
その表情に顔を歪めたのは正常な意識を持っている人のみ。
つまり、宍戸と向日と日吉のみです。


「忍足……ついに、男にまでそういうのを求めるようになっちまったのか……」
「侑士!お前人の事だと思って、俺を見捨てる気かよ!」
「もう変態の鑑と言っても過言ではないですね。理解できません」


それぞれ反論を述べる。
他の人たちは、


「女装?あっ、でもがっくん先輩とジロ先輩なら似合いそう!」
「そうかな〜?麻燐が言ってくれるなら可愛くなれそうだC!」
「いいんじゃねえか?たまにはそういう緩い部分もあって」
「面白そうですね。俺もお二人の女装姿見てみたいです」


上から麻燐、芥川、跡部、鳳。
どうやら結構乗り気のようです。
芥川本人も麻燐に言われて上機嫌のようです。


「驚いたわ。ジローのことやで嫌がると思うたんやけど」
「俺は忍足や跡部と違って可愛さがあるからね〜。何着ても似合う自信があるもん」
「自分で言うたな。こら本物や」


言いだしっぺの忍足が呆れるほどの自信です。


「まぁ、ジローはよく女子に髪結ばれて遊んでるのを見るけどよ……」


なんだか空気が嫌な流れに進んで行くのを、向日は黙って見ていません。


「俺は言っておくが、そんな趣味ねえぞ!」
「ちょっとがっくん、俺だってそんな趣味はないからね?」


芥川が聞き捨てならんというように付け足した。
そこははっきりさせておきたいようですね。


「でも向日先輩は背も小さいし、一番しっくりしそうですよ」
「!?鳳てめえ、自分がでかいからって調子乗ってんな!」
「気にするなよ岳人。女装が似合うと言われる男はそういねえぞ」
「言われても嬉しくねえんだよだから」


跡部にまで説得させられようとしている向日。
そう上手く丸めこまれたりしなさそうです。


「なぁおい、宍戸と日吉もなんか言ってくれよ!」
「そうだな……。おい跡部、女装なんかして、監督に怒られねえのかよ」
「監督なら平気だろ。大分性癖も分かってきたし」
「う……」


胸を張る跡部。
内容はめちゃくちゃなのに、どこか納得してしまう宍戸。
そろそろ何かおかしいと気付いてもいいと思います。
根本的におかしいのだと。


「というより、テニス部の気品に関わるんじゃないですか」
「そ、そうだよな日吉!へへ、どうなんだよ跡部!」
「問題ない。俺たちの気品はそんなもんじゃ落ちねえ」


その絶対的な自信はどこからくるのでしょうか。


「俺様がそんな失態をやらねえ限り平気だ」
「俺なら平気だっていうのかよ」


どうやら自分がやらなければ大丈夫と思っている、このナルシスト部長。
向日は不満そうな目を向ける。


「大丈夫だ向日。お前は似合う。俺様が言ってるんだ」
「だから心配なんだよ、親バカナルシスト」
「ふ、恥ずかしがるのも分かるが、我慢しろ」
「聞いてないなこいつ……」


踏ん張る向日。話を聞かない跡部相手に奮闘しています。


「まぁ、確かに岳人なら違和感ねえとは思うな」
「そうですね。何より下剋上です」
「おいお前らまで敵になるのかよ」


跡部の妙な自信に納得させられてしまった二人。
向日はさらに頭を抱えた。


「よし、ここで麻燐ちゃんの出番や!」
「?がっくん先輩に合う女の子の衣装を選ぶの?」


今まで黙っていた忍足が向日の目の前に麻燐を出しました。
麻燐は不思議そうな顔をしていたが、どうやら大まかな流れは掴んでいるようです。


「き、汚えぞ侑士っ!」


向日は吠えた。
確かに麻燐を使うなんて卑怯ですね。
逆らえないと分かっているのに。


「……麻燐は、俺が女の恰好しても変だと思わないか?」
「?がっくん先輩なら似合うよ!」
「(ただでさえ男として見られていないような気がするのに……)」


向日は身長差の事とか、よく気にしていますからね。
それも女装をしたくない理由に関わっているようです。


「……やっぱり恥ずかしい?」
「当たり前だろ」


はあ、と溜息をついた。
そんな向日を麻燐は心配そうに見て、


「でも大丈夫だよ!麻燐も女の子の恰好するから!」
「それは普通なんだよ、麻燐」
「がっくん先輩とお揃いにするから!」
「なっ……」
「がっくん先輩だけ一人ぼっちには絶対にさせないよ?だからジロ先輩も一緒に可愛い恰好するって言ってるもん」


にこりと笑う麻燐を見ていると、向日は何も言えなくなってしまった。
そして次に芥川を見てみる。


「俺は恥ずかしくはないけど、岳人も女装してくれるなら心強いC〜」
「……ジロー」
「せっかくの学園祭だし、楽しもーよ!岳人!」


芥川も麻燐と似た笑顔を向日に向けた。
これでとうとう断りにくくなってしまった。


「ったく………わーったよ、今回だけだからな!」
「よく言ったがっくん!俺も本気出すからね!」
「うん、麻燐も可愛くするの手伝う!」


潔く決めるときは決めた向日。
こういう時の男気は随一なところがありますからね。


「どうやら決まったみたいですね」
「がっくん……パートナーとして、成長した姿が見られるんは嬉しいで……」
「本当に見たいのは女装だろ?」
「宍戸、自分まで俺をそっち方面で見んといてや」
「まあいい。とりあえず、向日の意見も考慮して衣装を決めてやるか」


そして本格的に向日と芥川の衣装を決める動きに入りました。
衣装決めも終盤になりそうですね。


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