「あっ!」


再び衣装を探していた麻燐が何かを見つけたようです。
その声に合わせて、メンバーたちが麻燐を見る。


「どうした。何かいいものでもあったか?」
「景ちゃん先輩、これ見て!」
「アーン?………軍服、か」
「麻燐知ってる!昔、頑張って戦った偉い人の服だよね!」


麻燐が目をきらきらさせて軍服を見つめます。
その軍服は、深い緑にスラッとしたシルエット。
胸元には階級のバッジなどがあり、ちゃんと帽子まで揃っています。


「へぇ、そんな物まであるんですか。本物みたいですね」


日吉も興味があるのか麻燐の横から顔を覗かせる。
そして、麻燐と目が合った。


「わか先輩!」
「……ん?」
「えへへ……」
「………」


なんだか楽しそうなものを見つけた目で日吉を見つめる麻燐。
急に嫌な予感がした日吉は、う、と黙った。
この輝いている瞳を向けられたら……誰もが判断力を鈍らせてしまいますからね。


「これ、わか先輩に似合うと思う!」
「お、俺っ……!?」
「うん!だって、わか先輩はいつも頑張ってるもん!」
「……だとよ、日吉」
「………」


麻燐の背後にいる跡部までもが口を挟んだ。
どことなく……機嫌が悪そうだ。
一番に話しかけたのは跡部なのに、悔しいんですね。


「ねっ?嫌だったらだめだけど……」
「べ、別に嫌じゃない……。わかった。お前の意見を聞いてやる」
「本当?やったぁ!絶対に似合うよ!麻燐のお勧め!」


日吉が仕方なさそうに言うと、麻燐は飛んで喜ぶ。
また自分の意見が通って嬉しいんですね。
日吉は心の中でほっと息をついた。
麻燐にあそこまで言われたら、断る事なんてできないみたいです。


「これで決まったのは二人か……」


跡部も二人の会話を見届け、口を開く。
我慢していたみたいです。


「景ちゃん先輩は、何かいいの見つけた?」


そこで麻燐が小首を傾げて尋ねた。
跡部は顎に手を添え、


「これといってないな。俺様には何でも似合っちまうからな」
「うんうん、こんなにたくさんあったら選びきれないよね!」
「ああ。ったく、困ってしょうがねえ」
「麻燐も困ってるー。どれがいいかなぁ」

「……なんで、会話が成立してんだ?」
「気にしたらいけないですよ向日さん。お互い人の話は基本聞かない二人ですから」
「傍から見たら異様だぜ」


跡部と麻燐の様子を見て、向日、鳳、宍戸が呟いた。
あれは会話と言うよりはお互いの主張ですね。


「まぁええやん。それより麻燐ちゃん、俺に合いそうなん見つかった?」
「うーんとねぇ……」


そんな二人の間に割って入り、忍足が笑顔で聞く。
跡部はカチンときて忍足を睨んだが、気付かない振り。
麻燐愛は負けていませんね。


「あ、これなんてどうかな!」


麻燐が指差したのは、ベージュのコートにパイプ、蝶ネクタイ……いわゆる、探偵スタイル。
ベレー帽によく似た形の帽子まであります。


「お、探偵か……麻燐ちゃん、なかなかええのに目つけるんやな」
「でしょ!なんかね、侑士先輩見てたら……これだって思っちゃって」
「絶対眼鏡だ」
「うん、伊達眼鏡のせいだ」
「そこ、何を言うてんねん」


跡部と芥川の言葉に思わずツッコむ忍足。
探偵と言ったら丸眼鏡……そのようなイメージがメンバーの中にはあるみたいです。


「麻燐ちゃんはな、この俺のミステリアスな雰囲気に魅了されてこの衣装を選んだんや!」
「忍足さん」
「なんや?」
「それは自意識過剰……つまり、勘違いですから諦めてください」
「な、なんでそんな真顔で言うん!?」


皆さん忍足には果てしなく酷い態度ですね。
ですが今は、麻燐に衣装を選んでもらえた嬉しさが上回ります。


「麻燐ちゃん、ありがとうさん。こんな素敵な衣装選んでもろて」
「いいの!ゆーし先輩に気に入ってもらえてよかったっ」


また褒められて嬉しいのか、にっこりと笑顔になる麻燐。
そんな麻燐の表情につられて笑う忍足。


「残念です」
「……どうしたんや、鳳」
「個人的にはあそこの、ネタに最適!魅惑の白鳥さんスタイルをお勧めしたかったんですけど、」


そう言って指を差す方向にあるのは、バレリーナの衣装の……股間部分に白鳥の首がある、あの衣装。
一瞬血の気の引いた忍足だが、冷静を取り戻し、


「鳳、このパターン宍戸ん時と同じやで。読者の皆呆れとるんちゃうのん?2パターン目は冷めた目で見られるで!」
「あはは、あわよくば本当にその衣装に決定したという意識を刷り込ませようとしたんですけどね」


なんて会話をしているんだこの二人は。
そして忍足、口を慎みなさい。
鳳は先輩を敬いなさい。妙な力を習得しようとするのはやめなさい。


「何を話しているのー?」
「麻燐ちゃんには秘密だよ」
「ぶー!チョタ先輩のいじわる……」
「そんなに拗ねないで?ほら、今度は俺の衣装も決めてよ」


爽やかスマイルで麻燐との衣装選びをこぎつけた鳳。
なるほど、一枚も二枚も上手ですね。


「……なぁ宍戸、自分どういう付き合いしとったらあんな後輩になるん?」
「俺のせいじゃねえよ。あれが長太郎の素だろ」
「……へ、平然と言える自分も凄いわ」


宍戸はもう慣れている様子。というか、宍戸の前の鳳もあんな感じですからね。
忍足の衣装も困難を乗り越え決まった事ですし、残りも手早く決めてしまいましょう。