「まず担当だが、俺が決めさせてもらった」


跡部が腕を組み、話し始める。
どうやら昨日の続きを話しているみたいです。


「へぇ、どうなったんですか?」


それに鳳が詳しく問う。
そして、


「まず厨房だが、樺地と滝を中心に、準レギュラーに任せることにした」
「滝?」
「樺地は分かるけど、滝は意外だぜ」


宍戸と向日が珍しいというような表情で反応する。


「萩先輩!久しぶりに会えるーっ!」


麻燐もちゃんと滝の事は知っています。
よくレギュラーの中でいざこざがあったときに外へ引っ張り出してくれますから。
汚れた争いを見せない為に。言わばストッパー役です。


「ああ。あいつは手先も器用だし、準レギュラーをまとめる力もある」
「うんうん、萩先輩は優しいよね!」


跡部の言葉に麻燐もにこにこと相槌を打った。
そして、これからが本題のようです。


「じゃあ、俺たちは?」
「もちろん、ウエイターだ」


聞いた宍戸は、やっぱりと額を押さえた。
ウエイターは表に出ているので厨房と違い、コスプレをしないといけませんからね。
嫌そうな顔で跡部を見る宍戸。


「……俺、厨房で雑用でもやりてえ」
「俺様の決めた事に文句を言うな」


ふんぞり返って言う跡部の言葉に、何を言っても無駄だと悟った宍戸。


「ってことは、麻燐を入れて俺たち8人分のコスプレを決めないといけないんですね」
「そういうことになるなぁ」


日吉の言葉に忍足が頷く。
なんだか忍足は楽しそうですけどね。


「衣装っつっても……こんだけあったら逆に迷うな」


向日は周りの衣装を見て呟く。
確かに、演劇部なだけあってかなりの数の衣装が用意されています。
一つ一つ見て行くと日が暮れてしまいそうです。


「えへへ、どれにいしようかな〜?」


麻燐も楽しそうに眺めています。


「あっ!お巡りさん見っけ!」


そんな中、麻燐が提案した警官服を見つけました。
麻燐は嬉しそうに衣装を手に取る。


「へえ。本格的だな」
「帽子まであるぜ!」


はしゃいでいる麻燐の隣に来たのは宍戸と向日。
向日も楽しんでいるのか、帽子を被ってます。


「これ、誰かに来てもらうか?」


跡部も近寄り、麻燐に聞く。
すると、麻燐は笑顔で頷いた。


「うん!えーっとね、りょー先輩が似合うと思うの!」
「!?」


そう言って、汚れの無い笑顔を隣の宍戸に向ける。
突然のことに反応できていない宍戸。
そんな様子に構わず、警官服を宍戸に当てて見る麻燐。


「どうする宍戸、麻燐ちゃんから直々の指名やで」


にやにやと宍戸の後ろで囁く忍足。


「け、警察なんて俺……」
「絶対に似合うよ!だって、りょー先輩は優しいし頼れるし、イメージにもぴったりでしょ?」


目を輝かせて言う麻燐。
そんな麻燐の表情を見ていると、宍戸は断る気にはなれないようです。


「ほ、本当にそう思うか……?」
「うんっ」


ついに麻燐にほだされ、宍戸の衣装が決定しました。


「ははっ、ほんとに麻燐には甘ぇーんだな、宍戸は」
「う、うっせーよ岳人」
「警察なんて素敵ですよ宍戸さん!個人的にはあそこの80年代アイドルシリーズをお勧めしたかったんですけど、」


鳳の言葉に、さーっと血の気が引く宍戸。
どうやらその言葉は冗談ではなく本気のようで、麻燐のを断っていたら確実に提案していただろう。
鳳が指差す方向にある、キラキラな服を見て、冷や汗を拭った。


「これで宍戸は決まりやな。なぁ麻燐ちゃん、俺には何が似合うと思う?」
「んーっとねぇ……」


麻燐は人差し指を口に当て、衣装を見渡す。
そんな麻燐をよそに、忍足に手渡されたのは包帯の山。


「……これは何のつもりやジロー」
「俺ね、忍足にはミイラ男が似合うと思うC!」
「そんな白っぽい笑顔で言うても無駄やで。俺やと判別つかんやないか」
「大丈夫だって。俺が念入りに巻いてあげるよ?特に首回りは」
「俺を殺すつもりやろ!」


芥川の言葉に、恐ろしい!と反応をする忍足。


「ちぇー、冗談なのにー」
「ジローの言葉は冗談に聞こえんねん」
「つーか、ミイラ男とか喫茶店じゃなくてお化け屋敷だろ」


宍戸が横から口を挟んだ。
芥川は意見を却下され、包帯の山を部屋の隅に戻しました。


「うーん、侑士先輩はぁ……」


そんな二人の会話も聞かず、真剣に探している麻燐の姿。
健気なその姿はその場に居る全員の心を打ちました。


「うう、麻燐ちゃん……忍足先輩のなんか、そんなに真剣に考えなくていいのに…」
「ほぇ?」


そんな姿を見て逆に心を痛めたのか、鳳が声をかけました。
忍足を先輩とは思っていないような発言です。


「忍足先輩はね、存在そのものがコスプレだからいいんだよ」
「ちょっ、それどういう意味やねん!」
「変態と言う名の、ね……」
「チョタ先輩……」
「ちょお、今の会話で何でそんなに感動的な雰囲気が作れるん?俺不思議でしゃあないわ!」


麻燐の目線までしゃがみ、柔らかく微笑む鳳。
対する麻燐もそれにつられてにっこり笑います。
内容はただの忍足イジメですが。


「ったく、鳳、あまり麻燐をからかうな」
「あはは、すみません」
「絶対悪く思うてないやろ……」
「心配しないで、侑士先輩。麻燐、頑張って見つけるから!」
「っ麻燐ちゃん…!」


麻燐の笑顔で、先程の鳳の言葉なんて忘れてしまいそうな忍足。
改めて麻燐の優しさに心をほっこりとさせました。

そして、まだまだ衣装決めは続きそうです。