「俺たちが、劇?」


そんな中一番に声を出したのは芥川。


「……そうしたら劇に興味のない子でも見てくれるし、何より豪華になると思って」
「つーか、なんで麻燐まで!?」
「もちろん!私たちの劇のヒロイン、より華やかな舞台を作る為ですわ!」


落ち込んでいた美衣が復活して、麻燐の手を取る。
麻燐はにこりと笑って、


「麻燐も劇に出られるの?」
「もちろんですわ!私たち、いえ……学園の皆様が麻燐ちゃまのお姿を期待しているんです!」
「ち、ちょっと待てよ安藤!そんな事言ったら、麻燐がやる気に……」
「麻燐、やる!はなやかにする!」


麻燐の言葉に額を押さえる宍戸。
嫌な予感を裏切りませんね。


「さすが麻燐ちゃまだわ!私たちの天使!」


隣で真奈と愛子がきらきらした瞳で麻燐を見る。
詳しくはよくわからないが、3人が喜んでいる事に気付いて嬉しくなっている麻燐。
誰かの役に立てることが嬉しいようですね。
そして、そんな麻燐を止めることができないのはレギュラーの皆さんも承知のことです。


「はぁ……結局、こいつらの思い通りかよ」
「ま、ええやん岳人。人助けや思うて」
「だけどよー……」
「もちろん、約束通りここの衣装はお好きなものをお貸ししますわ!」


麻燐の承諾を得て、モチベーションが上がった様子の美衣。
それは他二人も同じようで、


「やったぁ!これで演劇部が廃部にならずに済むわ!」
「そうね、麻燐ちゃま本当にありがとう!皆さんも、ご協力ありがとうございます!」
「お、おい、俺たちはまだやるって決めたわけじゃ、」
「えっ?やらないの……?」


一番劇に反対をしているのは宍戸です。
自分がやるのも恥ずかしいし、今はそんなことをしている暇はないと言いたそうです。
しかし、そんな宍戸を見上げるのは麻燐。
どことなく心配そうな瞳で見つめています。


「うっ……」


負けそうな宍戸。
退かない麻燐。
そして、


「仕方ない。協力してやる」
「なんでお前が折れてんだよ」


二人の攻防には関係のない跡部が妥協するという結果になりました。
一番麻燐の影響を受けてしまっているのは、200人の頂点に立つ学園の跡部様のようです。


「ありがとうございます!これで、演劇部の存続を守ることができるわ!」


愛子が飛び跳ねて喜んだ。


「おい跡部……。いいのかよ?」
「別に構わない。麻燐はやる気なんだ」
「だからってなぁ、」
「それに、この3人もただ俺たちを巻き込みたいわけじゃねえんだ」
「………」


その跡部の言葉を受けて、宍戸は少し黙った。
そして、少し周りを見てみる。
発声練習用の本、昔練習していたであろう古びた台本。
壁には何度も作り直した様子のセットがいくつも立てかけてある。
隅にあるテレビの上には、他校のものやプロの役者の舞台が映っているDVD。
跡部の言う通り、この3人は本当に演劇部を守るために自分たちに協力してもらおうと思っていたんだ。
少々やり方は強引だが。


「がんばろうねっ、りょー先輩!」
「ちっ……仕方ねぇな。わーったよ、こうなったからには俺も協力する」
「さっすが宍戸くん!麻燐ちゃまが絡むと甘いわね」
「う、うるせえっ!」
「お礼に、麻燐ちゃまと共演する回数を多くしてあげるわ」
「なっ……高橋まで……!いらねーよっ!」


愛子と真奈が楽しそうに宍戸にお礼を言っていた。
さて、これでレギュラーの皆さんも納得したようです。


「では、シナリオは私が考えて、また後日皆さんにお知らせしますね」


真奈が何やらノートにメモ書きをする。
それを見た日吉は、


「今のところ、何か案はあるんですか?」
「特にはないわ。何かの物語を基盤にして考えようと思ってるんだけど……」
「そうですか」


突拍子もない創作物語に参加させられるわけではないと安心したのか、日吉はそれ以上何も言わなかった。


「……せっかくだから、どんなに小さな役でもレギュラーの皆には出てもらいのよね」
「でもこんな人数だぜ?」
「大丈夫よ。そこは私たち3人でよく考えるわ」


任せなさい、と3人は胸を張って答えた。
向日はどこか心配そうな顔をしているが。


「どうしたんですか?向日さん」
「いや……なんか、こいつらに任せるとろくなことがないような気がして」
「その気持ちは少し分かる気もします」


こうなったのも全て3人の仕業ですからね。
レギュラーたちの不安もなかなか消えません。


「さて、そうと決まれば早速申請しに行きましょ!」
「そうねっ。行動は早くするのに限るわ!」


そんなレギュラーたちを顧みず、美衣が指揮をとり、他二人も賛成した。
学園祭で劇をしたいという旨を伝えにいくようだ。


「テニス部の出し物についてまでは口を出さないから、あとは皆さんで衣装等を決めてください!」
「ああ、わかった」
「顧問の先生にお話しして、皆さんもこの部屋を使えるようお願いしておきますわねっ」
「「「それでは、行ってきますわ麻燐ちゃま!」」」


そう言って、3人は去って行った。
麻燐への挨拶を忘れるなんてことはしません。


「いってらっしゃーい!」


麻燐も笑顔で手を振り応えた。
さて、ほんの少しだけ静かになった演劇部部室。


「しかし……元はといえば跡部だろ?安藤に言われてきたのは」


まんまと騙されたんじゃないかと宍戸がジト目で言う。


「確かにそうだ。だが……言っただろ?俺たちだけでは力不足だって」
「今のところ、演劇部の衣装を借りられるのは楽だC〜」


芥川が楽しそうに衣装を眺める。
確かにその通りだ。自分たちで衣装を準備するとなると時間も労力も足りない。
それを思うと宍戸は何も言えなくなった。


「……で、これからどうするん?」
「もちろん、担当と衣装を決める」


忍足が仕切り直し、これからようやく学園祭の出し物の話し合いが始まるようです。