さて、あんぐりと口を開けているレギュラーの目線の先には何があるのか。 「へえ……これは、思った以上に揃ってるな」 跡部も少し予想外だったのか、顎に手を添え周りを見渡す。 服飾室の中、そこには見渡す限りに衣装や小道具、大道具がいっぱいに置いてあった。 衣装は忍足がよく言っていたバニーやチャイナ、袴や学ランまで揃っている。 どうやら、演劇部の部室というのは本当らしい。 「な、なんでこんなに揃ってんだよ……」 「だってもなにも、ここは氷帝学園ですもの。これくらい集められるのは当然よ、宍戸くん」 宍戸の驚きの声に、愛子がふふんと鼻を鳴らす。 そして美衣も得意気に、 「どうです?これならコスプレ喫茶にも役立つんじゃないかしら」 「そうやなぁ。充分すぎるくらいや」 忍足も満足そうに笑う。 そして麻燐が一歩出てきて、 「わあ、本当にいっぱいある!」 「麻燐ちゃんのためなら当然の結果です!」 「ふうん。っつーか俺、演劇部あること知らなかったC」 「それはあなたが少し抜けていたからじゃなくて?」 芥川も真奈も、お互いを嫌な意味で意識しすぎです。 「でもさっ、これなら俺たちがさっきまで悩んでた衣装のこともすっかり解決だな!」 「うんうん!麻燐も嬉しい!」 向日が嬉しそうに、少しわくわくも含んでいるような声音で言った。 麻燐も大きく頷いてます。 そして、 「やっぱり、お姉ちゃんたちの言うこと聞いてよかった!」 レギュラーの皆さんの安心したような表情を見て、麻燐がそう言いました。 その言葉を皆さんは聞き逃しません。 「先輩たちの言うこと……?なぁに、麻燐ちゃん」 鳳が問いだすわけでもなく、優しく、穏やかに聞きます。 こう聞くと、より麻燐が素直に答えてくれると分かった上での行動ですから凄いです。 案の定、麻燐は満面の笑顔で、 「合宿に行く前におねーちゃんたちが教えてくれたの!今度の学園祭の出し物に、こすぷれ喫茶を提案したら皆が喜ぶって!」 そう答えました。 そして、計画が失敗してしまったような表情で集まる3人を、レギュラーたちが揃って目線を向けました。 「どういうことなんだよ?」 「えっと……向日くん、これは別に何でもなくて……」 「もしかして、最初から俺たち……いや、麻燐にコスプレをさせたかったんですか?」 「そ、そういうわけじゃないのよ……日吉くん」 「なぁんや、自分らも麻燐ちゃんの可愛い姿を見たかったっちゅーこと「あなたと一緒にしないでくれるかしら?」 愛子、美衣、真奈がうまくレギュラーから話題を逸らそうとしています。 そして忍足だけが傷つきました。 「そういや安藤、お前俺たちがコスプレ喫茶をやるって知ってたよな?」 「えっ……わ、私はそんなこと知らなかったけれど……」 「嘘つけ。目が泳いでるぞ」 「う……」 跡部のインサイト発動! 美衣は言葉を詰まらせた! 「まさか……麻燐を利用して、俺たちにコスプレ喫茶をさせようって計画か?」 「利用するなんて……誤解よ、宍戸くん」 「んな手に乗るか。もともと跡部のファンなんだろ?ただ単にコスプレが見たいだけじゃねーのかよ」 「そんな気持ちは全くないから安心して宍戸くん」 「そうよ、麻燐ちゃまならともかく、跡部くんはもうないわ」 なぜだかちょっぴり傷ついた跡部。 完全にレギュラーたちからは足を洗ったようです。 「?お姉ちゃんたち、どうして素直に言わないの?」 「っ……麻燐ちゃま、」 「だって、お姉ちゃんたちは皆の事を思って麻燐に教えてくれたんだよね?」 「「「うう……」」」 その純粋な瞳を見て、顔を見合す3人。 小首をかしげる麻燐を見て、どうやら決心したようです。 「ご、ごめんなさい麻燐ちゃま!麻燐ちゃまにコスプレ喫茶の事を提案したのは、全部私たちの愚かな考えによるものなのです!」 3人はすまなさそうに頭を下げた。 急な事に、麻燐はクエスチョンマークを浮かべていた。 「そのっ……麻燐ちゃまが言えば、レギュラーの皆も絶対逆らえないと思ったし……」 「さ、逆らえないって……」 愛子の言葉に、周りからはそう見えてるのかと思うと急に心配になってきた向日。 何やら氷帝テニス部全体の誇りに関わりそうな予感。 「そうか。だから安藤は俺様にこの服飾室のことを言ったんだな」 「……はい。麻燐ちゃまに助言したのも、跡部くんに教えたのも、全部こうなると思ってしたことなんです……」 美衣が代表として白状した。 その両隣で、愛子も真奈もしゅんとしている。 「まぁ、別にこうなったことを責めとるんやないで?なんでこうなったかを教えてくれへん?」 「………わかったわ」 忍足の言葉に、美衣は話し始めた。 「……見ての通り、演劇部には衣装も道具も揃ってる。揃ってはいますわ……」 「でもどうしても、私たちには足りないものがあるの」 「足りないもの?」 跡部が聞き返す。 それには真奈が答えた。 「ええ。どうしても、人手が足りないの」 「人手……?」 「そうなの。一応、美衣が部長なんだけど……」 真奈が美衣を見る。 美衣は、 「他に部員が……私たち3人以外、いないんです」 「えっ?そうなんですか?」 鳳が驚いたように声をあげる。 その言葉にも美衣は冷静に頷いて、 「もともと目立たない部活だったのと、生憎私たちも興味で入っただけだから演技力が特別あるわけでも大会入賞を狙うわけでもなくて……。だから、春にもポスターを張るだけで終わってしまったんです」 いつのまにか演劇部の話を真剣に聞いているレギュラーの皆さん。なんだかんだ優しいでうね。 麻燐も同じように真剣に聞いています。 内容を理解しているかは別として。 「本当なら廃部になるところを、先生にお願いしてこの時期まで待ってもらったというわけです」 「……もしかして、学園祭を狙ってか?」 「ええ。この学園祭で、私たちが有志として劇を発表すれば、後輩たちも興味を持ってくれるかもと思って……」 そう言って美衣は額に手を当てた。 「……で、それがどうして俺たちのコスプレ喫茶と関係してんだよ」 跡部が問い詰めるかのように言う。 それ以上は言いよどみ頭を抱えてしまった美衣の代わりに、愛子が口を開く。 「その……言いにくい話なんだけど、衣装を貸す代わりに条件を付けようと思ってて、」 「条件?」 「……そう、麻燐ちゃんとレギュラーの皆も、劇に協力してもらおうと……」 「「「なにいっ!?」」」 皆さんが口を揃えて、目をまん丸にした瞬間でした。 ×
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