「で、集まったわけだが……」


今は放課後。
午前の間に跡部に言われたことを全員が守って、服飾室の前に集合していた。
ただ、肝心の跡部と麻燐はまだ来ていないみたいですが。


「一体何しようってんだよ……俺、こんなとこ来たことねえぞ」
「そんなの俺だってそうだぜ。大体、こんな部屋があるのだって知らなかった」


宍戸と向日が壁にもたれて文句を言っている。
服飾室は皆さんの教室のある校舎とは反対側の校舎の1階の隅という、目立たない場所にありますからね。
それに授業でも使わないため、知らないと言うのも仕方ないでしょう。


「まさか、俺達で衣装を制作するんじゃ……」
「そんなことはないだろ。男ばかりが揃いも揃って裁縫できるわけがない」


鳳の言葉に日吉が返す。
だよね、と鳳もまた首をひねる。


「第一、当の本人に裁縫ができるとは思えない。麻燐も、怪我させるわけにはいかないだろうしな」
「ってことは、樺ちゃんが作るのー?」


芥川が珍しく起きて、隣にいる樺地を見る。
樺地は跡部から何も言われていないのか、


「わかりません……」
「また跡部に振り回されとるんやな。まぁ、樺地なら一人でもできそうな気ぃするけど」


忍足の言葉に誰もが否定できずにいます。
そんなことを話しながら、全員が揃うのを待っていると、


「景ちゃん先輩、こっち?」
「ああ。あまり走るな。転ぶぞ」
「だーいじょうぶ!景ちゃん先輩がちゃんと手をつないでくれてるから!」


なんていう会話と共に、跡部と麻燐がメンバーのもとにやってきました。


「ちょお、何で手ぇつないどるん!?」
「あ?麻燐が転ばねえようにだろ」
「そ、そんな当たり前のような顔するんや……」


あまりにもナチュラルすぎて忍足以外は納得しかけていましたよ。


「ずるいですよ跡部さん!自分だけ麻燐ちゃんを迎えにいくなんて」
「部長としての務めだ」
「(跡部さんも頑固だな……)」


この二人の登場で、また騒がしくなりそうですね。


「そんなことより、急になんなんだよ。俺達をこんなとこに集めるなんてよ」
「ちょっとな、多少俺達では力不足だということが判明した」
「で、クラスメイトに知恵と道具を借りよう思てな〜」


宍戸が不可解そうに言うと、跡部と忍足が答える。


「へえーそうなのかぁ。って、侑士お前、なんで俺達がここに居るのか知ってたのかよ!」
「ああ、まぁな。本人が来るまで何も言えへんかったけどな」
「んだよそれ……」


へらへらと笑う忍足に、向日は肩を落とす。


「?がっくん先輩どうしたのー?」
「な、なんでもねえよ」


麻燐に心配され、大丈夫だとにかっと笑う向日。
それにつられてか、麻燐も笑った。


「それより、とにかく中に入るぞ」
「それはいいけど、いつまで麻燐の手を握ってんだよ」


麻燐に心配されたときに気付いたのか、向日がじろっと跡部を見る。
跡部も離すのを忘れていたのか、自分の左手を見た。


「………まあいいだろ」
「よくねえよ!」


最近ボケ化してきている跡部にツッコむ向日。
氷帝テニス部はこれで大丈夫なのでしょうか。心配です。
今が下剋上のチャンスとこっそりと狙っている日吉の存在とダブルで心配です。


「もうええやろ。ドア開けるで〜」


忍足が珍しく気を利かせ、先導を切った。
そしてドアを開けると、


「「「麻燐ちゃまあっ!!」」」


この時を待ってましたと言わんばかりに、麻燐ちゃまファンクラブ代表ともいえる3人が麻燐に近づいてきました。
あっという間に跡部は3人に押しのけられ、麻燐から離されました。


「……信じられるか?あれ、元は跡部のファンだったんだぜ……」
「全く信じられませんね。もう視界にも入ってないみたいです」


あまりの扱いに宍戸と日吉から遠い目で見られてます。


「久しぶり!おねーちゃんたち!」
「もうっ、麻燐ちゃまにお会いする日をどれだけ心待ちにしたことか!」
「5日間も離れ離れになるなんて、もう私の心まで枯れてしまいそうでしたっ!」
「やっぱり1日に30回は麻燐ちゃまの愛らしい姿をお目にかからないとだめですっ!」


上から、美衣、真奈、愛子の順に話しかけている。
こんなにぐいぐいと迫られても、麻燐は笑顔で対応しています。
ある意味、レギュラーたちよりもファンの扱いが上手いです。
……さて、忘れている人や、初めましての方もいると思うので、ここで少し人物紹介をしましょう。

安藤美衣は跡部と忍足と同じクラス。
今朝も二人に話しかけていましたね。
麻燐ちゃまファンクラブの会長であるためか、時々データマンらしき行動を取る。

高橋真奈は向日と芥川と同じクラス。
今まで普通の女の子であったが、芥川と接触することで黒い人と判明してしまいました。

後藤愛子は宍戸と同じクラス。
麻燐を溺愛する反面、麻燐が絡んだ時の宍戸の純情さを面白がっています。

以前は3人とも跡部を筆頭としたテニス部レギュラーたちのファンクラブを率いていましたが、麻燐と接触したことによって新たに『麻燐ちゃまファンクラブ』なるものを結成し乗り換えました。
今では皆さん、麻燐>>>レギュラー陣という式がたっており、麻燐以外何も見えないようです。


「ちょっとー、いい加減麻燐から離れてくれる?」
「あら、自分ができないからって僻むのは止めてくれる?」
「あはは、ただでさえサブキャラ紹介で無駄に行使ってんだから大人しく引っ込んだら?」
「ふふふ、それは自分の出番が少ないことへの余裕のなさの表れかしら?」


二人の間に火花が散る。
そして二人の発言はどうも危険な気がするのは私の気のせいでしょうか。
鳳以外はそれを恐ろしい争いだとでもいうように一歩ずつ下がってます。
同じファンクラブの美衣や愛子でも、こういった真奈の行動は止められないようです。


「ま、まあ……真奈も芥川くんも、今日は喧嘩しに来たんじゃないんだから」
「ごめんね美衣。私、麻燐ちゃまのこともあってか、どうしても芥川くんをライバル視しちゃって」
「あはは……(そして人の道を踏み外しちゃったのね……)」


少し同情も交えながら美衣が真奈を落ち着かせたところで、


「……で、なんでお前らが居るんだ?」


宍戸が話題を振り出しに戻した。


「あれ?宍戸くん、さっき部屋の中見てなかったの?」
「……お前らの登場でいっぱいいっぱいだったぜ」
「そうなんだ。じゃあ、きっと中を見たら純情な宍戸くんでも意味が分かると思うよ」
「ってそれ関係ねえだろ!」


面白そうに愛子が言い、もう一度ドアを開ける。
そして中を見た瞬間、ファンクラブ3人以外が唖然とした。


「こ、れは……」


鳳が物珍しそうに部屋の中に足を踏み入れる。
そして、



「「「ようこそ、我が演劇部の部室へ!」」」



美衣、真奈、愛子が口を揃えてレギュラーと麻燐を迎えた。