「ねぇ、最近、あの子調子に乗ってない?」
「そうよね、1年のくせにマネになっちゃって」
「ほんと、うざすぎー…」


3人の女生徒の声が、テニスコート付近の校庭に吹かれる風と共に消えた……。





「けぇーちゃんせーんぱーい!」


廊下を勢いよく走って来る麻燐を、跡部は少し呆れた様子で見る。


「おはよー!」
「麻燐…どうし…「麻燐ちゃーん!」
「あ、ゆーしせんぱーい!」


跡部の言葉を遮り、手を振りながら走って来た忍足。
麻燐も忍足に対して手を振る。


「……忍足、うるせえ」
「あ、跡部?何や不機嫌やなぁ」


それは貴方が言葉を遮ってしまったからですよ!
朝から跡部に睨まれ、忍足は苦笑で返すしかありません。


「……それで麻燐、何かあったのか?」
「あ、あのね、体育館倉庫裏ってどこ?」
「体育館倉庫、裏……?」


改めて麻燐に向き合うと、麻燐はいつものごとく突拍子もないことを聞いてきた。


「そんなところに何か用事でもあるのか?」
「うん、あのね、さっき下駄箱にお手紙入ってたの」
「……それって…」


跡部が眉間に眉を寄せる。何かを察したようです。


「ま、まさか……ラブレター!?」


そして、邪魔をしてきた忍足の言葉に跡部は忍足を冷めた目で見た。


「ううん。お友達になろうって書いてあったの!」
「「……は?」」
「えへ、この人達は麻燐とお友達になってくれるんだぁ」


麻燐ちゃん……さすがにそれは違うと思いますよ?


「……相手は男か?」
「えっと……分からないけど、きらきらした可愛いお手紙だから女の子だと思う!」


確認をとる跡部。
そしてその返答で、跡部は一番に考えたことを確信に変えた。


「麻燐、」


そこには行くな、と言う前に、忍足が別の言葉を麻燐にかけた。


「体育館倉庫はな、テニス部部室からずっと右に行ったとこやで。裏っちゅーんは、外ってことやな」
「忍足…っ」
「んーと、部室を右……うん、多分分かる!ありがとう、景ちゃん先輩にゆーし先輩!」
「ちょ、待…っ」


麻燐ちゃんはまた勢いよく走っていってしまった。
相変わらずの猪突猛進さですね。


「……忍足、どういうつもりだ?」
「大丈夫やて!景ちゃんは過保護やなぁ」
「るせえ!」
「ぐはっ!」


跡部は忍足の腹部に蹴りをくらわした。だから景ちゃんと呼ぶなとあれほど……。
そして不機嫌な跡部は忍足をほったらかしにして歩きはじめる。


「……放課後、行ってみれば分かるでー!」


復活した忍足が背後から手を振りながら叫ぶ言葉を、跡部は聞き流した。





「……何でこいつらも居るんだよ」
「俺が呼んだんや」


跡部の視線の先にはいつものメンバー。
目を細める跡部に、忍足は大丈夫やと落ち着かせる。


「俺達だって麻燐のことが心配なんだぜ!」
「そうだC〜!」
「麻燐ちゃん、大丈夫でしょうか?宍戸さん……」
「あん?……分からねーよ」
「……あんまり喋ったら見つかりますよ」


今、皆さんは体育館倉庫裏の近くの草むらに隠れている。
それは勿論、可愛い麻燐ちゃんのことが心配だから。
いくら中学生とは離れた容姿をしててもちゃんと青春してますね!


「お、麻燐が来たぜっ」


向日が飛び跳ねながら様子を見てると麻燐が来た。


「岳人、飛ぶなや…見つかるで」


というか、こんな草むらの狭い場所でよく飛べますね。


「えーっと、ここ…だよね!」


麻燐が辺りを見回しながら確認する。


「「「(可愛いっ)」」」


そんな仕草にもそう思ってしまうメンバーたち。
……さっきまでの緊張感はどうしたんですか。


「……あ、誰か来たC〜…」


小声で芥川が呟いた。
そのすぐあと、数人の足音が聞こえる。


「あなたが笠原麻燐?」
「うん!えっと……おねーちゃん達は?」
「「「(……お、おねーちゃん…っ)」」」


現れた3人の女生徒たちはいきなりの発言に少し戸惑う。
だがそれも一瞬で、すぐに腕を組み麻燐に対し睨むような目で見る。


「……おい、何か様子おかしくねぇか?」


その厳しい態度を見て宍戸が呟く。
忍足以外は表情を硬くして麻燐と女生徒たちの会話を見守った。


「……あ、あなた、最近テニス部レギュラーたちと仲がいいじゃない」
「れぎゅらー……景ちゃん先輩たちのこと?」
「あ、跡部様のことをそんなふうに呼ぶなんて……」


首を傾げる麻燐に対し、一人の女が悔しそうに口元に手を当てる。


「皆ね、すっごく優しいんだよ!テニスも上手だし、いっぱい応援したくなるよね!」


女生徒たちが言葉を失っている間に、麻燐は明るい表情で話す。


「そ、そんなこと知ってるわよ!私たちは皆と同じ3年生なんだから!」
「それなのに、どうして最近入学したばかりのあなたがレギュラーたちと仲良くしてるのよ!」
「私たちのほうが皆のことを知ってるし、よく見てきたのよ!」


少しむきになっているのか、3人の女生徒たちはそれぞれ思いの丈を語る。
黙って聞いていた麻燐でしたが、ゆっくりと口を開きます。


「……おねーちゃんたちはいいなぁ。3年生ってことは、3年間も皆とずっと一緒なんでしょ?」
「え、ええ…そうだけど……」
「麻燐ね、皆のこと大好きなの。皆のテニスも大好き。だから、麻燐が早く産まれてたらもっともっと一緒に居られたし、テニスもお手伝いできたのに……」
「「「(麻燐(ちゃん)……)」」」


麻燐の言葉にときめくレギュラーたち。
本当……この人たちは揃いも揃って麻燐バカですね。
ですが、それも仕方ないのかもしれません。普段はこんな真剣な話なんてしませんからね。


「おねーちゃんたちも皆のこと大好きなら、麻燐と同じだね。だったらもっとお話しよ!麻燐の知らない皆のこともっと知りたいし、おねーちゃんたちのことももっと知りたいな!」


上級生、しかも3人に囲まれていた麻燐。
その状況に怯えもせず、むしろ笑顔のまま手を差し出す。
有り得ない光景を見て、跡部は思わず目を見開いた。
そして、


「「「……………ゃま」」」
「ん?」
「「「麻燐ちゃまぁっ!」」」
「「「!?」」」
「んぇ?なになにぃ?」


どうやら、ときめいたのはレギュラーたちだけではないようです。
言いながら麻燐に抱きつく女生徒たち。


「可愛いっ!麻燐ちゃま愛くるしいわー!」
「ちょっと美依!麻燐ちゃまに近づきすぎよぉ!」
「そういう真奈だって!」
「あー!愛子も麻燐ちゃまのお手を…!」


一見取り合いに見えますが、3人はとても仲良しです。
そして、その様子を見ていたレギュラーたちは、


「な、大丈夫や言うたやろ?」


麻燐ちゃんの魅力は無敵なんや!性別すらも超越するんや!平和のキーは麻燐ちゃんなんや!
と麻燐説を語り出した忍足を皆さんは相変わらず無視をします。
ですが、ただ一人跡部だけは、言葉にして反応しないものの、してやられたと悔しい思いを抱いた。
そしてもみくちゃに可愛がられている麻燐がいるところへ一歩踏み出す。


「アーン、何やってるんだ」
「くそくそぉ!麻燐に触るなー!」
「激ダサだぜ!」


他の皆さんもしびれを切らしたのか飛び出していきます。


「みんなだー!」
「「「あ、皆さん……」」」


女生徒たちはとりあえず麻燐から離れる。
そしてお互い視線を交わし、大きく頷く。


「「「私たち、たった今麻燐ちゃまファンクラブを結成致しました!」」」
「「「ファンクラブぅ!?」」」


レギュラーが女生徒達の言葉に驚き声をあげる。
そして、リーダーらしき女が、


「私、麻燐ちゃまファンクラブ会長の安藤美依(あんどう みい)です」
「会員の高橋真奈(たかはし まな)です」
「同じく会員の後藤愛子(ごとう あいこ)です」


ちなみに、自己紹介中の視線は麻燐に向けられています。


「これからは麻燐ちゃま一筋よ!」
「麻燐ちゃま?麻燐は麻燐だよ?」
「ああ、お気になさらないで下さい!私達の愛情表現ですからっ」

「……最近の女って、分かんねぇ」
「そうですか?俺は分かる気がしますよ」


頭を抱えながらの宍戸の発言に、鳳は面白そうに笑う。
鳳も、麻燐の魅力は絶対的と思っているのでしょうか。


「麻燐ちゃんは人気やなぁ!でも、負けへんで?」
「勿論、私達もよ!」


どうやら、ついさっきまで慕っていた人たちがライバルとなったようです。


「アーン?俺様がてめえらに負けるかよ」
「そうだC〜俺だって負けないC〜!」
「いくらレギュラーだからって負けないわ!」
「激ダサだな……だが、負けは性に合わねえ」

「……いえ、それ以前に女性じゃないですか」


日吉の突っ込みもその場の雰囲気の熱さの前では消えてしまった。


「麻燐ちゃま!一緒に帰りましょ!」
「うん、美依おねーちゃん!」
「きゃっ!もう名前を覚えてくれたのね!」
「うん!えっと、真奈おねーちゃんに、愛子おねーちゃん!」
「「きゃーっ!嬉しいー!」」


名前を覚えてもらっただけでこの喜びよう。
流石ファンクラブ!


「くそくそ!麻燐、早く帰ろうぜ!」
「今日も送ってったるでぇ?」
「帰り道は危険だからね」
「うん!」
「麻燐ちゃまは私たちと帰るの!」
「さ、行きましょ?」
「麻燐ちゃま、鞄は私が…」


もはや、先ほどまでレギュラーが好きだったとは思えない反応。


「皆で一緒に帰ろ!」
「「「うん(はい)!」」」


しかし、鶴の一声。
麻燐のこの一言で、この日はとても大人数で帰りました。





とある変化
(これから麻燐ちゃまと私たちのお話に…by美依)(ならねぇよby跡部)