君はいつも毒ばかりを吐く。
それは日ごと、俺の体を蝕んでいった。
素直になれない性格の君のことはよく知っているつもりだった。
だから最初は仕方ないなとも思っていたし、むしろそういうところも一つの可愛さだと自分に言い聞かせることができた。
でも、君の毒は俺の神経をじりじりと狂わせていった。
君の顔を見るとときめいていた心が、いつの日か恐怖で震えるようになった。
また君は綺麗で愛らしい顔を歪めて俺を見るのかと。似つかわしくない毒に塗れた汚い言葉を吐くのかと。
俺は怖くなった。君の口から出る言葉に怯えるようになった。
それでも俺は君を好きだった。好きで好きで仕方がなかった。
いつか君の口から甘い言葉を聞けるのを待っていた。ずっと、ずっと。
夢にまで見て望んでいたけど、その日は一向にやってこない。
俺だって、我慢の限界というものはあるんだよ。
大好きな君から言われる苦しい言葉にもう耐えられなかった。このままでは俺は壊れてしまう。狂ってしまう。
そうなってしまったら君を愛することができなくなってしまうから。
そうしたらきっと、君も本心では寂しがるだろうから。
だから俺は決めたよ。君に素直になってもらう為に。君に毒ではなく甘い言葉を吐いてもらう為に。

「ああ……すごく、すごく甘い香りだ……」

君を砂糖漬けにすることに決めたんだ。
苦いものには砂糖を加えると甘くなる。それは常識でしょう?
だから俺も試してみたんだ。細かいことを言うと、君は苦いんじゃなくて毒があるんだけど。
それでもやっぱり、甘くするには砂糖かなって。
いつも冷たい態度を取る君には温かさも必要だよね。
温かいお湯の中、砂糖でぐつぐつと煮える君。
うん……砂糖の甘さと君独自の香りが混ざってくらくらしそうだよ。
ちょっと砂糖が焦げてるのかな?少しだけ変な匂いがするけど……。
俺、こういうことするのは初めてだからごめんね、少しだけ我慢してね。

「楽しみだなぁ……甘くなった君に、甘い言葉を囁いてもらえるのは……」

砂糖の効果が聞いてきたのか、もう何日も君の毒々しい言葉を聞いていない。
もう少し、もう少しできっと、君は俺に囁いてくれる。
ああ、ワクワクしてもうそれだけが俺の楽しみであり生き甲斐だよ。
君に初めて恋をした時のような……そんな心臓のドキドキを感じる。
俺はいくつも君に愛の言葉を贈ってきた。そのどれも君は満足してくれなかったけど。
ああ心配しないで。俺への返事は一つでいいから。ずっと待っていた君からの言葉。
それはたった一言だけなんだ。

「ああ……心から、愛しているよ……」

その一言さえ貰えれば、俺の中の蓄積された毒は綺麗に消えそうだ。
壊れてしまいそうだった俺の心も治るし、狂ってしまいそうなほど苦しい頭痛も眩暈もなくなる。
だから早く、早く聞かせて欲しいな。

君の口から……愛してるの一言を。





君にはお砂糖が足りなかったようだから。

俺が少し加えてあげたよ。ちょっと砂糖が多かったみたいだけど……大丈夫。
俺は吐きそうになる程甘い君をずっと望んでいたのだから。