小さい頃、ありきたりだろうけど、テレビで活躍するヒーローになるのが夢だった。
家族や友達、そして恋人……自分の周りにいる大切な人を守るために、巨悪に立ち向かう勇敢なヒーローに。
常に勝ち続け、悪を倒し続け皆から信頼されているヒーローを見て、小さなガキの俺は目を爛々と輝かせていた。
俺はそんなヒーローになりたかった。
いつか守りたいものができるその時まで、無邪気に、あてもなく、焦がれていた。
そして、俺にも守りたい人ができた。
その人も俺のことを大切だと言ってくれて、相思相愛になって。
俺は、この人のことを一生をかけて守ろうと思った。そして、愛し続けようと。
そう心に決めて、誓った。そのことを告げると彼女も照れながら喜んでくれた。
笑ってくれたその笑顔が愛おしくて、もっともっと彼女の笑顔が見たくて、喜ばせたくて、安心してもらいたくて、褒めてほしくて、愛してほしくて。
俺は必死だった。

それなのに、

「……赤也、ひどいよ……」

彼女は泣いている。
笑ってくれると思っていた俺は混乱して、手と唇が震えた。
彼女に触れたいのに彼女は離れていくし、の声をかけたいのにそれを拒む。
どうして?俺は彼女を守ろうとしているだけなのに。

「どうして、こんなこと……」

彼女は声を震わせながら、俺の背後をちらりと見た。
そこには横たわる二人の男子生徒がいる。少し殴りすぎてしまったのか、制服にはところどころ血がついてしまっている。

「ただ話していただけなのに……」

俺は彼女を守っただけなのに。彼女とあいつらの間に割って入って、彼女を守っただけなのに。
彼女のためだけの、ヒーローになろうとしているのに。
彼女はもう喜んではくれなかった。

「……愛してるって、言ってくれよ」

ただその言葉が欲しいだけなのに。
彼女は気違いでも見るような目で俺を見る。

「俺は、」

テレビの中のヒーローは、必ずヒロインの傍に居た。
決して離れないで、危険を感じた時はすぐに守って、寄り添って。
抱きしめて愛を囁くなんて気障なことはまだできないけど、もう少し大人になったらしてあげられる。
そして周りから祝福されるんだ。彼女には俺がついてるから安心だねって、言ってもらえるくらい。
立派で強くて、正義のヒーローに。

「あんたのヒーローになりたいんだよ」

ほら、と手を伸ばすと、彼女は小さな悲鳴と共に走り去ってしまった。
その後姿を追いかけることは俺にはできずに、どうしてこうなってしまったのかと、泣きたい気持ちでその場に立ち尽くすことしかできなかった。





君をずっと守ることのできるヒーローになりたかった。

それなのに、君は俺に怯え離れていき、誰もが俺を恐れていった。
俺はヒーローになりたいのに、まるで誰からも愛されない悪者みたいで悲しくなった。