「ああ、あ……」

一体私はどれだけの時をここで過ごしているのだろう。
目隠しをされ、手足は縛られ、自由を奪われ。
何時間なのか何日なのか、時間の感覚すらもうない。
もう意識すら朦朧としてきた中で、ただ一つ私に分かること。
それはあなたの存在だった。

「どうした?腹でも減ったか?」

ベッドで横にならされている私のすぐ隣。
そこにあなたが腰かけている、その重みが私が今感じられる唯一のもの。
とても優しい声音で私の髪をすくって頭を撫でる。

「あ……あ……」

私はもうすでに、狂ってしまっているのだろうか。
言葉の発し方が思い出せず、口から零れるのは唾液と弱々しい呻き声だけ。
それでも彼は私を愛している。壊れ物に触れるように唾液を拭っては、何度も私に口づけをしてくれる。
もう、その行為の意味すら分からない。
愛するための行為なのか、壊すための行為なのか。
あなたによって私は壊されてしまったから。

「大丈夫だ。心配するな。俺はお前を愛してる」

彼が、愛おしげに私の顔中に何度も何度もキスを落とすも。
私が見えてる世界にあなたはいない。
闇。視界も、頭の中も闇で一色。

「永遠に、お前だけを愛するから……」

色々な物を見て、感じてきた私の今までの世界をあなたは壊した。
私の世界だけでなく、私をも壊す勢いで。
ねえ、跡部くん。
そんなに私のことが好きだったの?

「あ……、あ……と……」
「……ああ、そろそろ風呂の時間だな」

跡部くん。ねえ、跡部くん。
私の世界を全て壊してしまうほど私のことが好きなんだと分かって。
私、すごくすごく嬉しいんだよ。
部屋に設備されているらしいお風呂に向かうため、私をお姫様抱っこする跡部くん。
だって、あんなに皆から必要とされ、愛されている跡部くんが。

「お前、軽くなったな……。待ってろ、あとでうまいもの持ってきてやる」

今は私しか見えていない。
私の世界は真っ暗闇、あなたが支配しているのと同じ。
あなたの世界も、今はもう私でいっぱいなんでしょう?
狂ってしまっても構わない。あなたの一番になれた。あなたの全てになれた。
それが今、とても幸せなの。幸せだと思えるの。
……最初はいっぱい抵抗してごめんね?きっと、あの時の私はどうかしてたの。
多分、あの跡部くんが私のことが好きなんだって、信じられなかったの。
きっと、私は最初から跡部くんのことが好きだったの。多分、そうだよ。そうに違いないよ。うん、きっと……。
だって、今はこんなにも心が世界があなたでいっぱいなんだから。
私は身体の全てを跡部くんに預けた。

「(跡部くん……私もね、あなたと同じくらい……あなたのこと、愛してるよ)」

そしてあなたの腕の中で。
私はそっと、満足気に微笑んだ。

「(きっと)」

あなたから与えられる世界を、私はもう受け入れるしかないのだから。





私の世界を貴方が壊した。

そして、
貴方の世界を私も壊した。