ああ、
もしもあの日に戻れるのなら。
俺は、きっと、

「どうしたの、慈郎」

君を殺すだろう。

「……なんでもないよ」
「そう?なんだかぼーっとしてたから、心配したよ」

俺の大切な大切な幼馴染。
そんな関係の俺たちが、まだ何の隔てもなく共に過ごすことができていたあの日に。
そう、あの日。
君から恋人ができたと聞いた日だよ。

「もう、いつまで俺の保護者気分でいる気〜?」
「慈郎がしっかりしてくれるまでかな」

あの日、俺たちは同じ家の帰路を辿っていた。
いつものように。そしてそれはこれからもずっと続くと思っていた。
まさか君に恋人ができて、一緒に帰ることができなくなるとは思ってもいなかった。
あの日君は言ったよね。遮断された踏切の手前で、立ち止まって居た時に。
「私ね、今日クラスメイトに告白されたの」「それでね、付き合うことにしたの」……って。
俺はびっくりしたよ。本当に、一瞬心臓が止まってたと思う。
そして言われてすぐに気付いたよ。ああ、俺は君のことが好きだったんだって。
情けないよね。今更気付いたって遅すぎるよね。それは謝る。
だから、こうして気付いた今、俺はあの日に戻りたい。
君から衝撃の告白を受けた直後に。
全てを理解して、電車が俺たちを通り過ぎる前に。
君を線路に突き飛ばしてあげるから。
君を殺してあげるから。
そうすれば、こんなにも悲しくて惨めな想いすることなかった。
何もクラスメイトと付き合うことないよね。嫌でも目に入っちゃうじゃん。
幸せそうな君と相手を見ると、自分でも怖くなるくらい気持ちが闇に染まっていくんだ。
どうして君は俺じゃない相手に笑いかけてるの?
どうして君は俺じゃない相手を見てるの?
どうして君は俺じゃない相手を好きになってしまったの?

「慈郎?」
「……ん?」
「また、ぼーっとしてたよ。眠いの?」

恋人ができても君は優しいままだった。
相手も俺と幼馴染だということを知っているのか、特に何も言われていないみたい。
でもそれが余計に辛いよね?だって、手の届く位置にいるのに君は俺のものじゃないんだから。
ああ、戻らない時がもどかしい。あの日に戻りたい。戻って、君が誰かのものになる前に。
俺の手で殺してあげればよかったね。

「うん……ちょっと、眠いかな……」
「そっか。せっかくの昼休みだし、少し寝たら?」
「……そうしようかな」
「うん。じゃあおやすみ、良い夢を」

ふわっと微笑みながら、君は俺じゃない男の元へと行く。
その後ろ姿を、俺は虚ろ気な目で見送った。
そして目を閉じて。願った。あの日に戻れますようにって。

俺のものじゃない君が生きているこの世界なんて。
まるで悪夢を見ているようだよ。





どうか、
あの日に戻って君を殺させてください。


ああでも、これが悪夢なら。
夢なら……いつかは覚めるはずだ。
覚めなければ、自らの手で覚ませばいいだけのこと。
待っててね、俺だけの君。