ごっ。 鈍い音が何もない部屋に響く。 それは俺が彼女を殴った音。震える拳で、彼女の頭を。 彼女は痛さに唸ることもなく、まるで人形のように倒れた。 「はーっ、はーっ……」 俺だけが荒い息をして、部屋の静寂を濁している。 彼女は気を失っているかのように倒れたままだが、じっと見つめるとその目が俺を見つめ返していることに気付いた。 何かを言いたげに。それでも無表情を貫いたままで。 俺はそんな彼女の表情が大嫌いだ。苛々する。無性に、痛めつけて無理矢理にでも泣かせてしまいたくなる。 彼女の冷めた表情から逃れたくて。 「お、れは……お前が……」 好きなだけ、なのに。 ただそれだけなのに。 彼女はそれを否定する。冷たい目で。 やめろ。そんな目で見るな。俺は、本当に好きなんだ。 お前以外の誰かなんか心の底からどうでもいいと思ってる。 お前以外の誰かにそんな目をされても、毛ほどの関心も湧かない。 だけど。お前だから。 大好きなお前だからそんな目で見られるのが嫌だ。怖い。恐ろしい。 俺がお前以外の誰かを見るような目で、お前は俺を見る。 それが、本当の本当に怖い。 お前にとって俺は、赤の他人以外の何物でもないと思い知らされているようで。 苦しくなる。だから拳の震えが止まらない。 そんな目で見るなと、口で言ったら嫌われてしまいそうだから。 こうして暴力を振るうことしかできない。 なんだか矛盾しているような気がするけど、それすら考えられなくなってしまうくらい、今の俺は掻き乱されてる。 たった一人の、お前の視線だけで。 「好き、なんだよ……」 好きだから、笑った顔が見たい。それは普通だろ? 泣きそうな顔で呟くように言うと、彼女は小さく吐息を漏らして起き上がった。 それだけで俺の心は躍る。不安と安堵の両方の意味で。 どんな目で俺を見るのか?どんな言葉を俺にかけるのか? ただそれだけが心配で、俺は彼女の肩をそっと支えて彼女の目を見つめる。 ゆっくりと俺を見つめてきた彼女の瞳は、 冷たい笑みを含んでいた――― それはどういった意味の笑顔なの? ねえねえ、気分はどう? 大好きな私をこんなところに閉じ込めて、嬲って甚振って、好き勝手して。 さぞ満足なことでしょうね。 私はあなたのことなんてこれっぽっちも好きじゃないけど。 全部全部あなたの自己満足だけど、あなたはそれでもいいんでしょう? なんて可哀想な人。哀れで、孤独な人。 たった一人傍に置く私にさえ愛されないなんて。 |