私はね、ずっとこの時を待っていたの。 あなたにこうして真っ直ぐ見つめられる時を。 私が世界で一番愛しているあなたに。 大好きで大好きで、仕方がないあなたに。 「ふざけんなよ…!ふざけんなよ…!」 あなたは私の両肩を強く掴み、壁に押し付ける。 そして何度も何度も大きな音を立てながら私を壁に叩きつける。 その何とも言えない表情……なんて素敵なの。 「岳人…どうしたの、痛いよ」 「っお前が……!俺を…っ不幸にするんだ…!」 悲嘆。辛苦。痛切。憤怒。嫌悪。憎悪。 そんな感情を全て詰め込んだような表情をしているあなた。 そしてそれらを全て私にぶつけているあなた。 なんていじらしくて愛おしいんだろう。 「私はただ…あなたが好きなだけなのに」 「嘘だっ!俺の嘘の噂ばっか流して…陥れて…独りにしたくせに!」 そう言いながら、岳人はもう一度私を壁に強く叩きつけた。 背中が痛い……でも嬉しい。 ようやくあなたは気づいてくれた。 私の存在に。私の気持ちに。私の愛に。 「それは…あなたを愛しているから」 「っ俺は……お前なんか大っ嫌いだ!!お前のせいで!!お前なんか…消えちまええええ!」 肩にあったぬくもりが首へと移動する。 私を強く掴んでいてくれた岳人の両手が、今度は私の首を締め付ける。 強く強く。指が肉に食い込んでしまうほどに。 苦しさを感じながらも…私はそれにどことなく恍惚の感情を抱いていた。 岳人がこんなにも私を見てくれている。 真っ直ぐな目で見つめてくれている。 たとえそれが恨み辛みであろうとも。 ようやく、あなたは私を見つけてくれた。 「死んじまえ!俺を苦しめるお前なんかっ……!!」 あなたを独りぼっちにすれば、きっと私を見てくれる。 そう信じていたの。あなたのことだからきっと、原因である私を見つけてくれるって。 岳人の手の力がだんだんと強くなり…それに伴うように意識もはっきりとしなくなる。 ああ、あなたの手のぬくもりを感じながら…死ぬことができるなんて。 私ってば、なんて幸せ者なの。 私は薄らと笑みを浮かべて……最後の力を振り絞って片手を、岳人の肩に置く。 そして、 「地獄で、また会おうね」 愛してる≠フ代わりに、そうあなたに言い残した。 私とあなたはまた出逢えるって、信じているよ。 この世界で、あなたと私が結ばれる運命は見つからなかった。 だけど、死後の世界なら。 地獄でなら……あなたとまた出逢える。 その時、またやり直そう。私とあなたの運命を。 最後の言葉は、その時までの「さようなら」だよ。 |