どうして君は、いつもそうなんや。

「なーにやってるの。謙也くん」
「……自分こそ、こんな所に何の用なんや」

可愛らしい笑顔と、少し高くて心地よい声と共に、
君は俺の元に現れた。
その笑顔、この昼までに何度他の男に見せたんや?
聞きたい。だけど、そんな権利ない。
俺は君の何者でもないから。
ただの友達。

「謙也くんがここに居るって聞いたから、来ちゃった」
「だから、なんでや?」
「だって…暇だったんだもん」

そう言ってにこりと笑う。
無邪気なその顔が好きや。
その表情を見ると、俺の心も穏やかになる。
好きなんや。君が。
どうしようもなく……愛おしい。

「でも、どうして屋上になんか居るん?」
「……ちょっとな、寂しくてなぁ」
「そうなん?……あ、じゃあ、あたしがこうしてあげる」

君は笑いながら、何の躊躇いもなく俺の手を握る。
それだけで俺は…こんなにも驚いて、心臓を高鳴らせるのに。
君はそんなの気付いてすらいなくて…純粋な親切心で俺の手を握ってる。
どうして、そんなに無防備なんや。

「どう?あったかいやろ?」
「ああ……めっさあったかい。ありがとな」

この一瞬が、ずっと続けばええと思った。
このままこの世に、俺と君の二人。
ずっとこうして手を繋げて、他愛もない会話をしていたかった。
そんなこと叶いもしないのに、夢見とる俺は阿呆なんやろか。
でも、ええやろ?
こういう時くらい、君を感じていても。
願っても、

「おー謙也ぁ、こんなところに居ったんかー」
「あ、白石くん!」

あっさりと君は、俺の手をすり抜ける。

「もしかして、邪魔してもうた?」
「そ、そんなことあらへんよ!少し、話してただけやし…」

君が白石のこと好きなんは、俺にも分かる。
でも……でもな?
そんな風に誰にでもすぐに笑いかけて。
純粋で残酷な親切を振りまいて。
無防備な背中を、俺に向けて。

「それよりっ、白石くんはどうしてここに?」
「ん?それはなー、君がここに居るんちゃうかなぁ思うて、来てもうた」
「もう、何それー…」

今すぐに君を抱き締めたい。
君の視界から白石を消したい。
俺だけの物にしたい。
ずっと、俺だけを見ていられるようにしたい。

だけどできない。
臆病で、勇気もない俺だから。
行動に移せないだけで、いつも心で思ってる。


君を、
壊してしまいたい――――





無防備で魅力的な君と、臆病で無力な俺。

どうしたら、君は俺を見てくれる?