先輩は、例えるならば太陽みたいな人だった。
誰からも好かれる態度で、皆に平等の優しさを与えて。
そんな先輩に虜になってしまったのは、俺も例外ではなかった。

「若、何してるの」
「……日向ぼっこ、ですかね」

放課後、部活のない日に俺が屋上に居ると、先輩が穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。
太陽みたいな先輩は、今は俺の大切な恋人。
俺から告白をして……先輩も、恥ずかしそうな顔をしながら頷いてくれたのを今でも覚えている。

「ふふ、楽しそう。私もする」

と笑いながら俺の隣に座る先輩。ああだめだ、愛しすぎる。
ちょこんと、蹲るようにして座る先輩の姿。
普通に立っていても平均より小さい先輩なのに、座ると余計に小さく見える。
そんな先輩の姿に、守ってやりたい、と思うのが普通だと思う。
だけど俺は違った。手離してはいけない、と強く思った。
俺よりもずっと小さな先輩は、いつしか俺と先輩との間にできた隙間をすり抜けて……どこかへ行ってしまうような気がしたから。
だから、俺がしっかりと捕まえていないと。他の誰の所へも行けないように。
……そう心で思うのは簡単だった。
だけど現実はそうはいかない。
先輩は学園の人気者だから。男女関係なく…誰とでも仲が良い。
その人数の分だけ、俺の心配は募る。
俺の隣で微笑している先輩が……いつの間にかどこかへ行ってしまうんじゃないかと。
それが不安で。心臓が押しつぶされるくらい。先輩を愛していて。

「……先輩、大好きです」
「っ…き、急にどうしたの?」
「すごく愛してます」
「若……、今日の若、変だよ」

真っ直ぐ見つめて言うと、先輩は照れたように頬を紅潮させ、目を逸らした。
それだけで俺の心は不安の波が押し寄せる。
どうして俺から目を逸らすんですか?ずっと、俺だけを見ていて欲しいです。
俺以外……その綺麗な瞳に写さないでください。お願いします。
俺だけを愛してください。一生、永遠に、俺だけを。

「先輩……」

気付いた時には、俺の手は先輩の首へと伸びていった。
先輩はびっくりしたように目を丸くしていたが、俺の両手が首に巻き付くと同時にそれらは細く歪んだ。

「っ……わ、かし……」
「先輩、愛してます。どこにも行かないでください…」

俺が先輩のことだけを想っていても。
先輩は俺以外の大勢の人から想われている。
それに優しい先輩のことだから…先輩は、俺以外にも同じように微笑んで、優しくしているんですよね。
俺はこんなにも先輩の事を一途に想っているのに。

「あ、ぐっ……」

でも、前々から思ってたんですよ。
こうして……先輩の瞳を閉ざしさえすれば。
先輩は俺だけのものになってくれるって。
二人きりになることができるって。
俺も、不安なんか感じないで……幸せになれるって。
ぐっと両手に力を入れると、先輩は辛そうな顔をして……そのまま息絶えた。
だらんと力を失う先輩。俺に全体重を預けてくれている。
たったそれだけのことで俺は心が満たされた。
先輩が…俺だけを見てくれる。ずっと俺の傍に居てくれる…そう思って。
嬉しくなって、涙が出そうなのを誤魔化すために先輩にキスをした。

「……愛してますよ。今までも、これからも」

俺が死ぬ時まで、永遠に。





俺にとってのハッピーエンド。
君にとってはバッドエンド。


俺はとても幸せですよ?
先輩にも幸せになって欲しいですが……それは、さすがに欲張りですよね。