「………また、こんなことしてんスか」

屋上にある給水塔の裏。
メジャーな屋上でも、近くまで来ないと見つからない場所。
そこが先輩の居場所だった。

「っ……光…」

先輩は俺を見ると困ったような、ばつの悪そうな顔をする。
それを俺は、先輩を咎めるような…軽蔑するような目で見る。
だから、先輩はリスカの跡のある腕を引っ込め、血のついたカッターを隠す。
そして俺のそんな目から逃れたくて、顔を俯かせる。
俺が隣にしゃがむと、先輩はリスカをした左手首に包帯を巻き、両手で自分の身を守るようにして俺から逃げようとする。
ぶるぶる震えて。全く、俺の顔を見ようともしない。

「先輩……」
「っ、!」

触れようと手を伸ばせば、既に隅にいるのにもっと隅に行こうとする。
俺はそんな先輩の態度を見て…ずきんと心が痛む。
俺は何も、自傷行為をする先輩を責めるつもりも軽蔑するつもりもない。
ただ、そうした目で見るのは、先輩に考え直して欲しいから。
俺の、大好きな先輩。
元々俺と先輩は幼馴染で……綺麗で優しくて、誰にでも誠実に接する先輩が、俺は大好きだった。
だけど、中3になった頃から先輩は虐めにあい、こうして精神を病むようになってしまった。
俺はずっと傍に居たのに。気付くことも、守ることもできなかった。
むしろ、そうして傷つられるべきなのは俺の方なのに。
俺は……何も、先輩にしてあげられなかった。

「先輩、逃げんといて……」
「っっっ!」

俺が無理矢理近づいて先輩を抱き締めると、先輩は尋常じゃない程心臓を鳴らす。
それが俺に対してのドキドキだったらいいのに。
先輩のは違う。極度の怯え。恐怖。それだけ。
幼馴染の俺でさえ、先輩は怯えるようにまでなってしまった。

「だ、め……光、私、汚いから……」
「先輩は汚くなんかない」
「っ……生きてても、しゃあない人間やから…」
「先輩は生きててもええ人間や」
「死ぬ、べき……価値のない、人間、やからっ…」
「先輩は死ぬべきやない。十分に必要な人間や」

そうまで言うと、先輩は泣き出した。
それがどういった涙なのかは分からない。
ただ俺は伝えたい。

「光……私、自分が大嫌いや……こんな、弱いだけの自分…」
「先輩は弱くてもええよ。俺がその分強くなるから。俺は先輩のこと大好きやから」
「っ………」

強い意志を込めて言うと、先輩はようやく俺の背中に手を回してくれた。
その手も…まだ、少しだけ震えているけど。

「光……私、本当に生きててもええの……?」
「当たり前やん。俺、先輩のことほんまに好き。守りたい。俺に、守らせて?」
「っ………う、うあぁ…」

先輩は俺の背中を強く掴んで、声を上げて泣いた。
今まで守れなくてごめんな。
これからは今までの分まで、先輩を守るから。
この世界でたった一人、大好きな人。
約束する。

「一緒に、生きてこうな……」

俺が、先輩を死なせないから。





俺は先輩の生きる糧に、意味になりたいと思った。

もうこんな世界壊してあげるからな。
先輩を怖がらせるだけの世界なんて、存在する意味もない。
だから先輩、もう心配せんといて。
先輩は俺だけ見とったらええから。
なんも、考えんでええ。俺が全て終わらせてあげるから。
とりあえず、先輩を虐めとった奴んとこ行こう。
俺が全員気絶するまでぶん殴ってやるから。
女?そんなん関係あらへん。当然の報いやろ。
むしろ、先輩のクラスの人全員殺してやりたいくらいなんやで?
誰も先輩を助けてくれへんかったんやろ?
大丈夫、俺のことなんか気にせんといて。俺ならやれるから。
それにちゃんと謝らせるで?土下座なんか生温いことはさせへんけどな。
血反吐を吐くくらい何度も何度も謝らせようか?
血が出るまで頭床にぶつけさせて謝らせようか?
…そや、先輩と同じ痛みと苦しみを味わわせようか。
俺が全員の左手首にリスカしてやる。もちろん、力加減は保障でけへんけどなぁ?
それくらい罪なんやで。俺の大好きな人を苦しめるっちゅーことは。
……だから先輩、安心してや?
1日で全部終わるから。
1日経てば……もうこんな世界からおさらばや。
幸せな世界が待っとるからな。
俺と、先輩の二人だけの世界。誰も先輩を苦しめる奴はおらへん。
素敵な世界やろ?俺が、先輩の為に創ったるからな……。
先輩、愛してる。誰よりも何よりも、愛してる。
俺 だ け の 、 大 切 な 大 切 な 先 輩 。