「のう、今日も一緒に帰らんか?」
「うん…いいよ」

俺の隣には愛しの彼女。
大好きで大好きで、ようやく手に入れることができた。
こうやって一緒に並んで帰ることも。
周りに見せつけるように手を繋ぐことも。
ようやく叶った……俺の夢。

「なん、緊張しとるん?」
「っ…そ、そんなことないよ」

くく、可愛らしい反応じゃ。
俺の前だからって、そんなに固くならんでもええのに。
まぁ…そんな初々しいところも好きじゃがな。
一生手離したくない。いや、手離さない。
俺がお前さんを見つけた時から、そう思っとるよ。

「お前さん、」
「な…なに?」
「下を向いて歩いとると、危ないぜよ」
「あ……そ、そうだね」
「まったく、そういう天然なところも可愛いのう」
「………」

ほら、また俯く。
照れとるんじゃな……。
この俺の言葉にいちいちそんな反応しちょったら、もたんぜよ?
これから俺はお前さんに一生の愛を与えるのに。
瞬間、ぎゅっと彼女の手を強く握ると、彼女の肩がびくりと動いた。
こんなことで驚くなんて、まったく彼女は恥ずかしがり屋じゃな。

「そういや…、さっきからあいつが見てるけど、なんか話すことでもあるんか?」
「っ……!…そんなの…ない、よ」
「そうか?でもお前さんの知り合いじゃろう?」
「……………知らない人だよ」
「ああ、そうじゃったな」

昔の男のことなんか、忘れたよな。
すまんのう、思い出させるようなことを言ってしまって。

「……………くく、」

俺も知らんよ。あんな男のことは。
確か同じテニス部だったようじゃが……俺たちには関係のないことじゃな。
悔しそうな気持ちを押し殺して平気を装い俺たちから目を逸らすそいつを一瞬笑い、

「ど、どうしたの………雅治、」
「なんでもなかよ。……愛しとうよ」

俺は誤魔化すかのように愛を告げた。
それに彼女は恥ずかしがっているのか、返事に戸惑う。
ああ、愛しい。

「……うん、ありがとう」

まだ愛の言葉は返してはくれんのか。
でも、まあいい。
今はその綺麗な笑顔が見られるだけで充分じゃよ。
その瞳の中に俺がいるだけで充分…。


その瞳の中からあの男が消えただけで、俺は嬉しいぜよ。
ああ、そうさせたのは俺だったかのう?

まぁどうでもいい。
今彼女は俺の物なのだから。な?





お前が傍に居るのなら、
他の人間なんてどうでもいい。


お前が俺の心を奪ったのだから、
俺がお前を奪うのも当然じゃろう?

たとえそれが、元仲間の恋人であろうともな。