「……おいジロー、」
「あ、跡部。ちょっと待って。今、電話中なんだよね」

昼休み。屋上に居るジローに話しかけると、ジローは笑いながらそう言った。
俺はそんなジローを少し見つめながら、隣に座った。
いつもの眠たさがなく、楽しそうに会話をしているジロー。
俺のことなんか気にしてもなく、電話に夢中だ。

「……ジロー、お前、昼飯は」
「もう食べたよー。…あ、ごめんごめん、こっちの話」

そう答えたジローの隣には、確かに弁当が転がっていた。
急いで食べたのか…箸が無造作に置かれている。
俺は溜息をつきながら、汚れないように箸入れにいれてやった。

「おいジロー…。お前、俺様が来た時くらい電話を切れ」
「A〜?相手は俺の大好きな子だよ?跡部が後から来たんじゃん」

そうやってむすっとして、再び会話に戻る。
俺はその様子を、目を細めて見ている。
楽しそうだ。……本当に。
そうだよな…ジローは、本当にあいつのことが大好きだった。心酔しきってた。
あいつがいないと、生きていけないくらい。
それは誰もが…理解していた。

「ジロー、電話を切れ」
「なんでだよー。彼女とお話するのが俺の唯一の楽しみなんだC!」
「………」

また不機嫌そうに、俺を睨んだ。ジローからは考えられないくらい、怖い顔だ。
そんなに二人を邪魔する俺が憎いか。
お前の気持ちに水を差す、俺が恨めしいか。
だがな、

「ジロー、こんなことをしても、」
「あ、ごめんねー待った?今さ、跡部がうるさいんだよねー」

俺の話を、よく聞け。ジロー。

「そんなことをしても、あいつは戻ってこないぞ」
「………」

一瞬の沈黙。
ジローは言葉を失い、少しだけ眉を寄せた。
力が抜けたのか、耳元にあった携帯が離れる。
その携帯から聞こえた声は、


『おかけになった番号は、現在使われておりません……』


という、無機質な音だった。
ジローは手をふるふると震わせ、再び携帯を耳元に当てる。

「……何度もごめんね?跡部が訳わかんないこと言うんだよ……ちょっと、場所変えるね」

そう言ってジローは立ち上がり、俺から逃げるようにその場を去った。
ジローの話したい相手は、もう二度と携帯にでることはできない。
その前に……会話をすることすら、できないんだ。
その真実を誰もが伝えようとするが、あの調子…ジローは聞く耳を持たない。
俺は熱くなる目頭を抑え、空を仰ぎ見た。

あいつがいつか悲しみを乗り越え、未来を見る日が来る事を願って。





どうしたらお前に真実を分かってもらえるか、思案してやまない。

時間が解決するのを待つしかないのだろうか。