ああ、まただ。
またあの人は泣いている。
見た目では分からないけど、心の中でたくさんの涙を流してる。
私の身体の痛み、傷の数だけ、彼は泣いている。

「………むかつく」

彼の心の中では葛藤が繰り広げられている。
それを私は止めてあげたいけれど。
傷が痛くて、心が痛くて、涙が止まらない。
彼を止めてあげられない。
慰めてあげられない。
喉が震えて声が出ない。
全て自分に腹が立って。
私は声も出さずに、泣くことしかできない。
その間も、彼は悲しんでいるというのに。

「いっ……」

若の蹴りが鳩尾に入った。
痛い。痛い。悲しい。
彼はどうしてこんなに苦しんでいるの。
私でよければ、悲しみを解してあげたい。
だけど、私にはできない。
だって……、

「っ……わかし……」
「……俺の名を呼ぶな」

私は彼に嫌われているから。
だから彼はこんなことをするんだ。
きっと、何か気に入らないことがあったんだ。
だから私が悪い。
彼は何も悪くない。
私が彼を愛してしまっているから。
だから彼はこんなに悲しんで、こんなことをするんだ。
だけれど私は貴方を愛しているの。

「わ……か、し……」

大好き。大好き。狂おしい程に。
どんなに傷つけられても、
彼が私を求めてくれるのなら、
こんなに嬉しいことはない。
彼には直接言えないけれど
早く、伝わって欲しい。
できたら、気付いて欲しい。
私は絶対に逃げないよ。
ずっと貴方を愛し続けるよ。
貴方が本当の愛を知る日を待ちながら。

「………お前なんか嫌いなんだよ…」

例え貴方が私の心を苦しめるような言葉を吐いても。
貴方のその心の中の蟠りを取り除くまで。
私は、
貴方の傍に、いるつもりだから。
彼の姿が遠くなる。
無意識に拳を握っているのが見える。
ああ、苦しんでるのね。
大丈夫。私ならその苦しみも全部受け入れて、楽にしてあげるから。

「若……大好き……愛、してる……」

口から咳とともに血が出て、だんだんと意識が遠くなる中、
私は愛おしく、呟いた。





一途に「愛してる」