「っく……っく……」

泣いている。
俺の、彼女と呼ぶべき存在が……。
俺によって、俺の手によって、傷つけられて。
ひくひくと声を抑えながらも泣いている。
俺はその姿を見て何故か怒りが込み上げてくる。
いつからこんな風になったのか分からないが、苛々が止まらない。
俺は顔を歪めて目の前で蹲ってる彼女を蹴る。

「いっ……」

もう大分蹴られてるせいか、大きな悲鳴とかあげない。
びくっと身体を震わせ身体を小さくするばかり。
俺は更に蹴る。蹴る。何でか分からないけど蹴る。

「っ……わかし……」
「……俺の名を呼ぶな」

彼女の口から出る俺の名前が憎くて。
その涙交じりの声を黙らすかのようにもう一度蹴る。
彼女は「うっ」と小さく悲鳴をあげて床に倒れた。
俺の名を呼ぶな……。
お前に、呼ばれる理由なんてないのに……。

「う、っ………く、」

彼女は未だ泣き続ける。
その声を聞く度、俺は心が痛くなる。
だから、いつも思っている。
思っているだけで言葉には出さないし行動にも移さないが。
……どうして、ここまでしてるのにお前は逃げないんだ。

「わ……か、し……」

泣き続けて、俺の名前を意味もなく呼んで。
痛いんだろ?辛いんだろ?苦しいんだろ?
なら何で逃げない……逃げて、くれない。
俺のこの行為はもう止まらない。
それなのに、俺が呼ぶと彼女は来てくれる。
どうしてだよ。
されることは分かってるんだろ?
俺と会ったって、傷が増えるだけ……。
俺は止まることができない。
なのに、何で………。

「………お前なんか嫌いなんだよ…」

蹴る足を止める。
そして、これは俺の気のせいなのかもしれないが、彼女の震えが一瞬止まった気がした。
俺は彼女を後にして去る。
嫌いだ……こんなに俺を苦しめるなんて。

大好きなのに。
離したくないのに。

離さないといけなくて。
それがあいつの幸せだと思って。

「……………………くそっ」





泣くくらいなら逃げればいいのに、
なんでだよ。


そうしたら楽になれる。
俺も、お前も。