▼ ヘタレ×したたか


正々堂々と気持ちを言えないのは、俺達が男だから。
いや、違う……ただ単に、俺がビビってるだけなんだ。



「千夏、好きだ。」

「ん゛ーー……」

「付き合ってくれたら嬉しい……」

「ん、」

「はは、ありがとう……」



直接言えないなら……と、眠る千夏に小さく思いを告げたのは数ヶ月前、それから十数回目の告白をしたのは今朝の事。



千夏は朝に弱い。
遅刻防止の為、誰よりも早く学校に来ては、その分を机に伏せて眠る。
その習慣を知ってから、俺も朝早く登校するようになった。
他の奴等が来るまで……この僅かな時間が、俺にとっては大切。



好きだ、好きだ、好きだ。



次々と溢れて来る思いを、初めて口にした時……まあ、眠る千夏にだけど……俺の言葉に反応して、短い返事が聞こえて来た。
最初は驚いたけど、無意識に返事をしてる……そう気付いたのは、完全に目を覚ました千夏がいつもと同じだったから。
けど嬉しかった。
否定されるでも無く、千夏に返事を貰えた事が……嬉しかったのだ。



千夏と俺は、高校2年に進級する際、初めて同じクラスになった。
最初の内、どちらかと言えば地味な部類に入る彼を、認識すらできてなかった……けど何時だったか、周りとの関係に疲れていた時、真っ先に気付いてくれたのは、話した事もない千夏だった。



「人気者は大変だな。……泣きたきゃ泣いて良いぞ?イケメンは泣き顔もイケメンだ、安心しろ。俺が保証する。」



突然現れ、興味無さ気にんな事言うから、可笑しくて涙。
それがきっかけで時々話すようになり、何時しか立派な恋心へと成長を遂げていた。



「千夏、今日の帰りどっか行こうぜ!」

「おう。」



教室の隅から聞こえる千夏達の会話……こんな時、どう仕様も無く胸が押し潰されそうになる。
今まで何度も何度も繰り返した告白が、正々堂々と言えてたら、放課後は俺が千夏と過ごせたかな……



「渋谷も来る?」

「ち……な……」



放課後、いつもより沈んだ気持ちで帰り仕度をしていると、千夏が俺に話しかけて来た。
珍しい出来事に、俺の頭はパニック状態。



「この後3人で駅前行くけど、お前も来るか?」

「え、いや、な……何で、俺?」

「だってお前、構って欲しそうだったし『恋人をほっとくな』って顔に書いてあった。」

「…………っ!!!!」

「勘違いなら良いや。じゃあまたな。」

「ちょ!!!ま、待って!!!今のどう言う!!」



俺は慌てて千夏の服を掴んだ。
聞き間違いでなければ、彼は今……



「?、どう言うって、そのまんまの意味だけど?」

「こ、恋人って……言った?」

「ああ、言ったよ。」

「誰……と、誰……が?」

「………………俺、とお前。」

「っ!!う、嘘だろ……何で!!」

「お前さ……本気で寝てる奴が、毎回無意識に返事すると思うか?っても、意味を理解したのはここ最近だけどな。」

「じゃ、じゃあ、今日の朝もっ!!」

「返事はしただろ?『ん』って。」



ニヤリと意地悪く笑う彼に、色々な思いから顔が熱くなる。



「起きてたならもっと早く言ってほしかった……」

「面白かったし、俺は寝てるとは言ってない。でもま、可哀想だから1つ良い事教えてやるよ。」

「え?」






――先に惚れたのは俺。






囁かれた言葉に、時が止まる。
ドクドクと心臓だけが忙しなく動き、それは白昼夢を見ているようだった。



END



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