▼ 不良×平凡


「あのっ!!隆也君。」

「…………どちら様?」



久遠が俺に絡まなくなってから一週間、望み通り平穏な日々を過ごしていた俺に、1人の優等生擬きが声をかけて来た。
そう、あくまで¨擬き¨が……な。



「お……ぼ、僕は久遠 雅彦です。」



でしょうね。



180を優に越す長身、整った顔立ちは間違いなく、久遠 雅彦本人。
だが、奴は目立つ銀髪に、大量のピアス、制服は着崩してユルユルダルダルだったはず。
なのに、一週間ぶりに俺の前へ現れた久遠 雅彦は、綺麗な黒髪に、真面目眼鏡のオプション付き。
ピアスを外して制服を見本の様に着こなしていた。
ここまで印象が違えば『どちら様?』と尋ねてしまうのも無理がない。



「久遠……これは何の冗談?」

「こ、これは……隆也君が、目立つ俺……僕が嫌いだとおっしゃりましたので、目立たないように頑張った次第であります!!」

「…………そんな理由で?」

「っそんな理由じゃねぇ!!です。俺はずっと隆也が好きだった、です。やっと勇気出して告ったんだ!!……なのに、目立つから嫌だとおっしゃるなら、いくらでもお、僕は変る!!」



…………こいつ馬鹿だ。



『そんな理由?』と素で驚けば、元から違和感だらけの敬語を、興奮で更に滅茶苦茶しながら、必死に気持ちを伝えようとして来る。
本当に馬鹿だ……けど、少しだけ可愛いと思ってしまった。



「…………久遠は、本気で俺が好きなのか?敢えて触れなかったけど、俺は男で何処にでも居る平凡野郎だ。」

「当たり前です!!大好きです。平凡じゃない!!隆也君は可愛いと僕は思います!!」

「…………じゃあ俺と、性的な事もしたいと思う?」

「っ〜!!!!」



赤面しながらも、頭を上下させる久遠に思わず笑みがこぼれる。
今まで経験が無い訳じゃなかろうに、何をそこまで照れるのか…………
俺は正直、久遠と付き合うのも悪くないと思い始めている。
俺の為に変わる努力をした一途さと健気さは、好感が持てた。
俺は同性愛に偏見はないし、久遠も俺に告るくらいだ……大丈夫なんだろうけど、問題は体を重ねる時だ。
これでも一応、男だからな……そう言った欲求は常にある。
ただ、男同士となると…………



「なぁ、久遠。お前、下になれる?」

「な゛!!俺が下だと!?」



やっぱ無理だよな。



久遠の反応と体格からして、間違い無く下は俺になるだろう。
だけど、俺だって下にはなりたくない。
こう言う事は付き合う前に話し合っておく必要があるだろうし、俺が下になる覚悟を決めるまで、やはり付き合うのは厳しいか。



「隆也が……隆也君が、上になりたいなら俺は下でも…………良いです。」

「………………は?」

「下の方が……体に負担かかるだろうし、隆也君には無理させたくない。……隆也君が……こんなデケェ男でも、だ、抱いてくれるってんなら僕は下でも構わない!!!!」



何その可愛い台詞。



身なりだけじゃなく、そんな事まで俺を優先させるなんて……こいつを狂人とか言った奴誰だよ。
何かもう普通に可愛いじゃん。



「久遠。もう良い。俺、覚悟決めたから。」

「…………覚悟?」

「ああ。とりあえず、俺も久遠と付き合ってみたいと思う。」

「っ!!そ……れは本気か!?!?」

「本気。」

「っ…………クッソ!!マジでやべぇ!!超嬉しい!!ああ゛クッソ幸せじゃねぇか!!」



頭をガシガシかきながら、目を潤ませ喜ぶ久遠に、俺もこいつと向き合えて良かったと思う。
ついこの間まで、面倒な奴だと思っていたのにな。



「……本番までには準備しとくから。」



やっぱり俺は、抱くより抱かれてみようと思うんだ。
それは俺が決めた覚悟。
ま、久遠は案外ヘタレだし……準備期間は充分にありそうだ。



俺は平穏な毎日を手放す気はない。
けど、平凡な毎日を塗り替えてみるのも良いかもしれない。
久遠 雅彦……彼の隣でさ。



END



11.0423
 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -