▼ 後輩×先輩


家庭科部なんて女々しい部活、正直俺らしくないと思う。
超絶不器用だし、料理や裁縫なんて女の子達に任せっきり。
そんな俺が家庭科部に在籍する理由……それは多分、一番端の調理台で生クリームを必死に泡立ててる先輩のせい。



本当、似合わないよな…………



俺がこの学校に入学した当初、部活に入る気なんて微塵もなかった。
それが何時だったか、クラスの女子に誘われ、家庭科部に付いて行ったあの日、俺は先輩を見つけてしまったんだ。
先輩は背が高いけど、顔は至って普通。
そのくせ、ムスッとした表情が近寄り難いオーラを放っていた。



何でこの人、此処に居るんだろ?



純粋に疑問だった。
それから1日中、頭の中は先輩でいっぱい!!
自分で言うのも難だけど、俺ってすっげぇモテるから、周りには可愛い女の子達が自作のお菓子を持って集まってくれているのに、場違いな先輩が気になって味なんかまるで分からなかった。
そんで結局、家庭科部に入っちゃったんだけどね?
今なら分かるよ、男ってギャップに弱いんだ。
つまり……そう言う事。



「お、今日はケーキ作るのか?」

「ああ、丁度生クリームが出来た所。」



俺は専ら試食専門。
椅子に座って遠くから先輩を見ていれば今日もやって来た……あの男。
先輩が何時も使う調理台は窓にとても近い。
それを良い事に、先輩の友達だと言う男は毎回摘み食いをしにやって来る。
正直、イライラして仕方がない。
部員である俺だって、数える程しか先輩のお菓子を食べた事が無いのに!!
何よりムカつくのは、普段はあまり見せない笑顔を……あの男には頻繁に見せる……そこが一番気に入らない。



「なぁ、味見して良いか?」

「別に良いけど。」

「じゃあ、失礼して……」

「っ!!お前、なに人の指食ってんだよ!!」

「俺の手汚れてたし、スプーン無かったから?ま、美味かったよ!ごっそさん。」

「ったく、お前って奴は……」



っ!!!!
俺は2人の遣り取りに思わず調理室を飛び出した。



有り得ねぇ、有り得ねぇ、有り得ねぇ!!



あの野郎、先輩の指に付いた生クリーム食いやがった!!
ふざけんじゃねぇぞ!!



俺は怒りを廊下の壁にぶつけると、そのままズルズルと座り込んだ。
悔しくて悔しくて、あの男をぶん殴ってやりたい……と同時に、呆れながらもそれを許してしまう先輩が憎かった。



「おい、大丈夫か?」



どれ位の時間廊下に居たのだろう……
声をかけられ顔を上げれば、そこにはエプロンを外した先輩が立っていた。



「全員調理は終わったぞ。お前、試食専門だって言ってただろ?具合が悪くないなら調理室に戻ろう。」

「…………………………先輩、俺、好きです。」

「?……菓子が好きなら調理室に戻れば幾らでもある。」



はは、先輩は何も分かってない。



「好き、大好き、めっちゃ好き。」

「お前はそればっかだな。どうしたんだ一体……」

「好きなんですよ……先輩の事。」

「……………………俺も好きだぞ?お前は可愛い後輩だからな。」

「好き、大好き…………」



¨好き¨と何回も繰り返す俺に、先輩は少し困ったのか、口元に手を当て、どうしたものかと悩んでいる。
その仕草を見た瞬間、先程の光景が頭に浮かんで来た。



あの男が舐めた指を口元に…………



自分の中にドロリとした黒い感情が生まれ、気が付いたら先輩の手をとり、あの男と同様、先輩の指を口に含んだ。



「っな!!」



先程と状況が違う事は分かってる。
だけど、突然の俺の奇行に眉を寄せる先輩が気に入らない。



「っ!!!!」



ジワリと口内に鉄の味が広がる。
ガリっと思いっきり歯を立てれば、先輩の指から僅かに血が滲んだ。
痛みから更に眉を寄せた先輩に、申し訳無さよりも『ざまあみろ!!』としか思わなかった。
そんな自分に笑いが込み上げて来る。



「先輩、俺って超甘党なんですよ。」

「……?」



突然の甘党発言に、首を傾げる先輩はとても可愛らしい。



「つまり、ビターエンドは受け付けない。」



これは俺からの宣戦布告。
ドロッドロッに甘く溶かしてみせるから……覚悟していて下さい。



……先輩?



END



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