▼ 『素敵な計画』続編


――不在着信1件
仕事が終わり携帯を確認すると、友人である沢内から電話がきていた。
なにか用だろうか? と疑問に思いつつかけ直すと、相手は3コールもしない内に電話へ出た。



『もしもし』

「あ、もしもし、沢内? 俺、新田だけど、不在着信があったから……何か用?」

『あ〜、そうそう、電話したわ。別に用ってほど大した事じゃないけど、今日、俺の家に来ない? もう仕事、終わったんだろ?』

「えっ、まぁ、終わったけど……」



沢内は数年前から一人暮らしをしていて、俺の会社から比較的、近い所に家がある。
一人暮らしだから当然、夜に押し掛けてどうこう気を使う必要も無い。
が、俺には一つ、気掛かりな事がある。



「智亜くんが居たり……これから来る、とかじゃないよな?」

『智亜? ……ああ! 今日は居ないし来る予定も無いぞ』



『安心しろ』と笑う沢内に『それじゃ行く』と返事をして通話を切った。

――神宮寺 智亜
彼は超イケメンで頭もいい、モテる男の代表みたいな男で、沢内とは似ても似つかない、甥っ子である。
俺が初めて彼に出会ったのは、高校生の時。
智亜くんはまだ、5才だった。
そして、俺のなにが彼の琴線に触れたのか、うっかり俺に初恋を捧げ、大学生に成長した現在まで、その初恋を拗らせに拗らせ、俺を困らせている。
今日みたいに何でもない日の誘いを警戒してしまうのも『大志さん!』と笑顔の智亜くんが待ち構えている事が、多々あったからだ。



***



「お邪魔しまぁす」

「お〜、いらっしゃい」

「ん、飯食ったか知らないけど、俺は食ってないから適当にコンビニで買って来た」

「おお、サンキュ、悪いな」

「いや、別に」



ガサリ、手に持ったコンビニの袋を沢内に渡すと、綺麗とはいい難い正に男の一人暮らしな汚部屋に上がり込んだ。
床に散乱している物を足でどかし、自分の座る場所を確保する。



「……で、本当に用も無く呼んだのか?」

「ん〜? そうだけど?」



ガラス戸一枚挟んだ台所で、コンビニの惣菜や弁当を温めている沢内に声をかけた。



「へぇ……相当、暇だったの?」

「……まぁ、それもあるけど、一人暮らしは寂しいじゃん? つまり、そういう事だ」

「……どういう事だよ」

「話し相手が欲しいって事……ほら、コレとコレは温まったぞ……ってか、量多くね?」

「いいんだよ、腹減ってるから。それに、足りないからって外行かれて留守番させられるよりましだろ?」

「……はは、いつも悪いな、留守番させて」



苦笑しながら渡された焼肉弁当に、さっそく箸をつける。
沢内は缶ビール二本をテーブルの上に置くと枝豆に手を伸ばした。



「……本当に今日は智亜くん居ないんだな」

「だから、そう言っただろ」

「いや、そうだけど、信用ならねぇからな」

「ひっどいな、お前。まぁ、そんなに智亜を警戒してやるなよ」

「……簡単に言うけどな、お前。そうはいかねぇだろ、馬鹿!」



彼は年々、格好よさが増し、それに比例してオーラがこう……エロい、というか、色気が半端じゃなくて、色んな意味で心臓に悪い。
昔はもっと子供らしく純粋な笑顔……いや、昔から大人びた笑顔だったけどもっ!
……貞操の危機は感じなかった。
俺、オッサンに片足突っ込んだ男なのに……



「もうさ、いっそ受け入れてやれば?」

「………………はぁ?!」



イカの一夜干しをモソモソ咀嚼しながら、何でもない事のように、とんでもない事を沢内は言った。



「お、お前っ、いくら沢内には似ても似つかないイケメンだからといって、智亜くんは、お前の甥っ子なんだぞ?!」

「ああ。俺に“超そっくりなイケメン!”の甥っ子だよ、智亜は」

「……その“似ても似つかないイケメン”な甥っ子と、自分の友人にソッチの道へ進めって言うのかよ?!」

「できれば俺に“超そっくりなイケメン”の智亜には、普通に美人なお姉さんと結婚してほしいさ。そして俺にも美人な嫁さんの美人な御友人を紹介してほしい」

「っ、なら何で!」

「だって、健気すぎるじゃんか、智亜の奴」

「……そ、それは……」

「5才の時から今までずっと、健気に新田の事を思い続けてさ。ここまできたら、逆に諦めろなんて言えねぇよ」

「…………………………でも、だけど、」



沢内の言葉に、俺は何も言えなくなる。
俺は今までずっと、智亜くんの告白を断ってきたし、彼が勝手に俺を好きだと言っているだけで……

ころころと意味も無く、ビールの缶を掌で転がした。
ひんやり冷たい缶に掌の熱が奪われていく。



「それに、智亜の事は嫌いじゃないだろ?」

「…………嫌いでは、ない」

「んじゃあ、そろそろ前向きに考えてやってよ……な?」

「…………………………」



『三十越えて彼女も居ないんだからさ』と笑う沢内に『お前もだろ』と鼻で笑い返した。
……前向きに、か。



***



――ピンポーン



夜の11時を過ぎた頃、沢内の家のインターホンが鳴った。
こんな時間に来客だろうか?
隣りを見ると、沢内も不思議そうに玄関を見つめている。
そしてもう一度、ピンポーンとインターホンが押された。



「……出ないのか?」

「ん、ああ、誰だろ……ちょっと見て来る」

「気をつけてな」

「お〜」



ヒラヒラと手を振って玄関へ向かう沢内。
すぐに“ガチャリ”と鍵を開ける音して――



「大志さん居るっ?!」

「うおっ、智亜?」



――!?!?!?
と、智亜、だと!?!?
何でここに!?!?

玄関から聞こえてきた声に、俺はわたわたと焦って立ち上がった。
……かと言ってどうするわけでもなく、二、三歩後ろに下がっただけにとどまる。



「あ、大志さん! やった、会えた!」

「……や、やぁ、智亜くん……こんばんは」



『こんばんは』と笑う智亜くんに、結局、俺は元の場所へ腰をおろし、彼も座れるよう、ゴミだか私物だか分からないモノを部屋の隅へ投げ飛ばした。



「……狭い所だけど、どうぞ」

「ありがとう」



後ろで『狭いは余計だ!』と沢内が吠える。
けど実際、狭い上に汚いのだから仕方ない。
喧しい沢内は無視だ無視。



「……で、どうしたの? 智亜くん。今日は来る予定が無いって沢内は言ってたけど」

「ああ、うん。予定は無かったんだけど、今来たら大志さんに会える気がして」



『まさか本当に会えるとは思わなかった』と薄く頬を染めて笑う智亜くん。
こういう表情を見ると、年相応、というか、純粋な好意を感じて胸がほわほわする……
チラリ、沢内を見ると『前・向・き!』と口パクで俺に訴えてきた。

っ、そんな事言ったって、どうすんだよ!

『大志さんに会えた』と、俺の手を握って口づけをする智亜くんに、頭と胸が痛い。



「……と、智亜、くん!」

「なぁに? 大志さん」

「……も、もし、智亜くんが大学を卒業した時まで……」

「うん?」



前向きに、前向きに、前向きにって何だ?!
わからないけど、とりあえず――



「……も、もし、大学を卒業した時まで……こんな、オッサンに片足突っ込んだ俺を……好意的に思ってくれてたなら、」

「…………………………なら?」



「……本当に、一緒に、暮らしてみる?」



「っ、大志さん!」

「わわっ、ちょっ、智亜くんっ?!」



ガバッ! と興奮気味に抱きついてきた智亜くんを支えきれず、二人で後ろに倒れる。
沢内の脱ぎ散らかした洋服のおかげで、背中は痛くなかったけど、さっきにも増して胸が痛い。
ドキドキドキドキ――三十過ぎて鳴るような心臓の音や動きはとうに越えている。



「大志さんっ、大志さんっ! 同棲の約束、絶対に忘れないでねっ! もう俺の一方的な願いで済まさないから!」

「なっ、ど、同棲?! ちがっ! 同居だ、同居!」



『同棲!』『同居!』と言い争う俺たちに、沢内は『シャンパン買ってくるわ。15分で戻るよ!』と相変わらず不細工なウィンクを残して家を出て行った。



ああ、もう、どうしたんだ俺!



恐らく、数年後に訪れるだろう彼との生活を思って、心臓強化の必要せいをひしひしと感じていた。



END



13/05/05
・子供の日

今年もこいつ等を書いてしまった(笑)
年に一度しか書かないキャラなので、性格や色々が多少、違っても許して下さい←
昔の文を読み返すのは苦行ですね……
来年もあるのかな?
1192があればあるかもな……(笑)

深くは考えていませんが一応、年齢はこんな感じ。
名前:智→5 大→17
計画:智→17 大→29
約束:智→20 大→32
約束の智大はもう少し年齢が上でもいいや。
適当です、適当!(^o^)
 
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