▼ ヘタレ×淡白
俺に伊原 廉(イハラ レン)という名の素敵な恋人ができて約2週間。
キスやその先もしたいけど、それよりも先ずしたい事――それは、手を繋ぐ!
そりゃね、俺たちは“普通の恋人同士”じゃないですよ……?
でも、普通に普通な事をしたい!
相手が“男”だって、惚れた相手なら関係無い、手を繋ぎたい! 恋人だから!
とは強く思っているんだけど、この2週間、指先1つ触れ合っていない……
だって何だか、ガードが固いんだもん、彼。
いっっつもポケットに両手を突っ込んでさ。
然り気な〜く……なんて絶対、無理!
だから、手を繋ぎたくって、俺――
作戦を立てちゃいました。
『出さぬなら、出さして繋ごう、彼の手を』
作戦その1、手比べをしてみる。
昼休みの時間に、何気ない会話の流れから、彼と掌を合わせ、その時にガッとギュッと、指を絡める作戦であります!
「伊原の手って結構、大きいよね? 身長は俺の方が高いのにさ」
「あー、そうか? まぁ、遺伝かもな」
「両親も手が大きいの?」
「父さんの方がな」
「へー、そうなんだ……ねね、俺と手ぇ比べしようよ! どれだけ違うのかさ」
「……嫌だ」
「!? な、なんで!?」
「…………お前の指、手羽先くってベタベタだから」
「oh...」
『手ぇ洗って来いよ』と渋い顔をする伊原。
俺は自分の両親指と人指しゆびを見て、何故今日に限って手羽先を弁当に入れたのだ、母よ! と天を仰いだ。
お手拭きも入れといてよね……!
作戦その2、体育中のハイタッチ。
俺たちは今、体育の授業でバスケットボールをやっている。
伊原は勉強は苦手だけど、体育は得意だから絶対に点を入れるはず!
その時にハイタッチをして、そのままガッとギュッと指を絡める作戦であります!
「伊原っ!」
「んっ」
「頼む、決めてくれ!」
俺から伊原の手に渡ったボールは、綺麗な弧を描いてゴールにシュパッと決まった。
流石、伊原! 俺の伊原! 俺のダーリン!
……いや、ハニー!
とにかく俺は伊原に駆け寄り、右掌を高く差し出した。
「すごい綺麗なシュートだったよ、伊原! へーい、ハイタッチ!」
「…………………………」
「へーい、ハイタッチ!」
「…………………………」
「へーい、……伊原?」
「……へーい、じゃねぇだろ。お前と俺は、敵チーム。こっちからすればラッキーだったけど、ありゃお前のミスだ」
「oh...」
忘 れ て た !
振り返るとチームメイトが『そりゃないわ』と呆れた顔で首を振っている。
そして伊原は、拳と拳を“こっつんこ”して仲間と笑っていた。
拳と拳……だ、と?
作戦その3、ごめんね伊原、転んでくれ!
この作戦は単純に、教室へ戻る途中の廊下で伊原の足を引っかけ、地面と『こんにちは』する前に、俺が手を引いて助けるという自作自演であります!
「(伊原、ごめんっ!)」
「っわ、」
「! 危ない、いはr「とっと、危ね……
お前なぁ、足引っかけんなよ、危ねーから」
「…………ご、ごめん」
伊原は俺が助けるまでもなく、ちょっと躓いただけで、両手も相変わらずポケットの中。
『今度から気をつけろよ』と、スタスタ先を行ってしまう。
そうだった、俺の伊原は運動神経がスーパーな自慢のダ、ハニーだった!
……これは俺の凡ミスです。
――それならば、と
作戦その3.5、転んだ俺を助けて、伊原!
運動神経のいい彼を転ばせられないのなら、自ら転んでみせるしかない。
地面と『こんにちは』しようとも、伊原が手を差しのべてくれれば◎な作戦であります!
では、さっそく、
「うわわ、足がもつれてっ…………ぃた!」
ドーンっ、と豪快に廊下で倒れる。
顔面強打は流石に避けたけど、膝とお腹が痛いし、ってか、つ、冷たい……!
『早く俺を助け起こして〜』と思いながら、上目で伊原を見やる。
「い、伊原ぁ〜」
「お、お前…………………ぷっ……あはっ、あはははははは! だ、だせぇ!」
「っ!? 伊原!?」
「ひははははは、な、何お前。体育で全然、動いてないくせに疲れたのか? それで足がもつれでもして、ふはっ、あははははは!」
「ぅっ、ひ、酷い……」
「ふはは、俺はお前と違って活躍したから疲れてんの。無駄に腹筋使わせるなよ。ひー、おかしい! ほら、早く立てよ。自分で立てるだろ? 腹も冷えるしな」
伊原は『俺は先行くぞ〜』と、腹を抱えて、本当に俺を置いて行ってしまった。
うう、これじゃ“格好悪い彼氏”な印象を与えただけじゃないか……にしても、伊原は冷た……いやいや、これは愛の鞭に違いない!
そうやって自分を励ました。
作戦その4、もうストレートに言ってみる。
『手を繋ぎたい』って、『ポケットから手出して』って、『店でそれやると万引きと誤解されるよ』って、素直に伝える正攻法!
学校からの帰り道。
夕日をバックに所謂“放課後デート”の行き先を決めている伊原……
伝えるなら、今でしょっ!
「なぁ、腹減らない? あそこ入らね?」
「い、いいいいい伊原」
「何だよ、あそこじゃ不満なのか? なら、向こうの店でもいいけど」
「そ、そそそそうじゃなくて」
「はぁ? 向こうも嫌なら、あとはコンビニしかねぇんだけど」
「そ、そそそそれでもなくって」
「んだよ、じゃあどれだよ」
「て、ててて」
「て〇や?」
「ち、違うくて、てて、手をっ! 手を繋ぎたくてあります、はいっ!」
い、言えた!
思った以上に噛んだけど、想像より強気に伝えられた! ……はず。
伊原は驚いたように俺を見ている。
そして、一言――
「無理」
断 ら れ た !
『無理』ってガチのトーンで『無理』って!
本気の拒絶。
「な、なんでよ?! 何で無理なの?! 今は手羽先でベタベタもしていないのに!!」
「…………だって」
「だって?」
「…………俺、」
「俺?」
「…―が…―いから」
「へ? なに?」
「っ、だから! 俺っ、…………汗が……、手汗がすごいから!」
「えっ、だから?」
「だから、無理!!」
えっ、えーー!!
手汗とか……手汗とか、そんなの……
俺は伊原の両手をポケットからガッと出させて、無理矢理、ギュッと指を絡めた。
「そんなの、俺だって一緒だよ! 伊原と手を繋ぐの想像して、緊張して、手がジメジメしちゃってる!」
「……お前、」
「けど、手汗とかそんなのは関係ない! 俺は伊原と手を繋ぎたい! 伊原は違うの?」
「……俺は、」
「うんっ!」
「やっぱ、無理」
「えっ、えーー!?!?」
「……お前の手、俺より湿ってたんだもん」
「?!?!」
「……ほらな、やっぱ手汗は気分がいいもんじゃねぇんだよ」
「…………………………」
『手を繋ぐなら手袋している冬にな』と近くのファミレスに入ろうとする伊原。
結果的に、俺は伊原と手を繋げたし、冬には繋いでくれると約束もしてくれた。
けど――果たして作戦は“成功”と言えるのだろうか?
冷たい汗に、一段と掌が濡れるのだった。
END
13/04/26
伊原くんの名前は募集からお借りしました!
ありがとうございます^▽^
手汗は普通に私の悩みです(笑)←
緊張とかねー困るよねー
酷いノリだけど、これが1192ノリかな?と書いてて思いました(笑)