▼ 『余所見は禁止』続編(?)


今日は待ちに待ったクリスマス。
生まれて初めて、恋人が居るクリスマス。
正直、俺は浮かれていた。
恋人が狂人と呼ばれる元不良で、男だとしても、某ディスカウントストアーでプレゼントを買ってしまうくらい、浮かれていた。
そして俺の恋人、久遠 雅彦(クドウ マサヒコ)もまた、浮かれていたらしい。



「…………なに、この量」



久遠の家は基本、久遠以外、誰も居ない。
両親は共働きで滅多に家に帰らないそうだ。
その為、今日みたいなお家デートは久遠の家でする事が多い。
そんな日は大抵、夜飯もご馳走になる。
この日も例に漏れず、久遠が料理を準備してくれた、のはいいが……有り得ない。
ドーンッ!と置かれた料理の量に、軽く目眩がした。
大皿をグルッと1周ローストチキンが並び、中心は唐揚げの山。
所々、プチトマトやパセリ、レモンで飾付けがされている。
これはまさか、肉のツリー?
それを囲むようにして、ミートスパゲティにチキンライス、サンドイッチの皿がある。
残ったスペースにコンソメスープ、取り皿が置かれた。
それなりに大きなテーブルの上は、赤く肉肉しい料理でぎゅうぎゅうだ。



「久遠……量が……おかしい」

「……少しでも特別な感じにしようとしたらこうなった。ケーキも2ホールある」

「2ホール?!」

「チョコと白いの、どっちがいいか訊くのを忘れた」

「……馬鹿だ、お前」

「っ、仕方ねぇだろ! 楽しみにしてたんだよ! だから、つい……」



流石に本人も、作りすぎた自覚があるのか、真っ赤な顔で俯いてしまう。
肩が少し、震えている。
あー、ちょっと酷い事を言ったかも。
俺は反省して、久遠のご機嫌をうかがった。



「久遠、久遠? ごめん、悪かった。料理、ありがとうな。俺も今日は楽しみにしてた。ほら、プレゼントも買って来たんだ」

「……あ? プレゼ、ント?」

「そう、プレゼント。こうゆうのは後での方がいいのかもしれないけど、まぁ、中身的には先がいいと思いまして」

「……俺に、か?」

「当然」

「…………っ、……あ、お、俺も! 隆也にプレゼントがあるんだ!」

「マジで? ありがとう。けどさ、それ先に開けてみてよ」

「え、あ、おう…………サ、ンキュ」



プレゼントを渡してやると、信じられないとでも言いたげに目を見開いて、徐々に先程とは違った意味で眉間にシワを寄せた。
この険しい表情も、久遠なりの照れ隠しだ。
顔の赤みも増している。
散々、人を殴り、傷付け、傷付いて来た久遠の手が、ゴツゴツした見た目に似合わず、繊細な手つきで包装を開けていく。



「…………こ、れは」

「クリスマスの定番だろ?」



ぴろんっと包装の中から出て来たのは、赤いサンタクロースの衣装。
しかも、ミニスカート。
久遠はその衣装を両手で広げ固まっている。



「サイズ探すのに苦労したよ。それでも一応1番デカイんだぜ」

「……は? いや、まさか」

「クリスマスの夜に恋人がミニスカサンタのコスプレをしてくれるって最高だと思わないか?」

「……ああ、それは思う。けど、」

「俺も、恋人のミニスカサンタに憧れる」

「…………………………」



ニッコリ笑った俺と衣装を交互に見る久遠。
あー、悩んでる悩んでる。
久遠は今、究極の選択をしているはずだ。
この衣装を着るのか? 俺が?
いやいやいや、有り得ねぇ!
けど、隆也が俺にくれたプレゼントだ。
恋人のミニスカサンタにも憧れるって……
だが、俺だぞ? 無いだろ、マジで!
って感じだろうか。
強く握られた衣装が、ミシミシいっている。
久遠は付き合う前からそうだったが、俺に尽くすタイプだ。
自分にできる事なら、できる限りしたい。
そんな思いが今も変わらずあって、そのせいでこうして悩んでいる。
なかなかに可愛げがあるだろう?
だから俺に遊ばれるんだと小さく笑い、久遠を許してやる事にした。



「久遠、それ冗談だから」

「………………あ?」

「いくらサイズが1番デカくても、180を越す男じゃ着れないよ」

「あ、ああ……だよな」

「だから、これを着るのは“俺”」



あからさまにホッとした様子の久遠から衣装を奪い取り、勝手に脱衣所を借りる。
あっという間にパンツ一丁になった俺は、赤いサンタ服に身を包んだ。
若干パツパツしているが、まぁ平気だろう。



「じゃーん、なんつって」

「……っ、たか、也」

「どう?」



脱衣所から久遠が居る部屋に戻ると、クルリ1回まわって見せた。
我ながら痛い事をしている。
それでも、久遠が笑うでもなく、頬を染めて『可愛い』と言うからヨシとしよう。
俺も久遠も、浮かれて頭がオカシイんだ。



「………………」

「………………」

「………………」

「…………隆也っ!!」



俺が動くと、久遠の視線も一緒に動く。
ジーーッと穴があくんじゃないかって程、俺を見ていた久遠が、突然、飛び付いて来る。
何となく予想していた俺は、ひょいっと久遠の脇をすり抜け、椅子に座って足を組んだ。
……あ、裾からボクサー丸見え。



「隆也っ?!」

「触るの禁止」

「……んでだよっ!!」

「飯もケーキもまだだから」



そう言えば、チッと盛大な舌を打ち、久遠は乱暴に椅子へ座った。
不満そうにしても、こっちの意見を優先してくれるのは流石、久遠。



「メリークリスマス」



こうして俺達のクリスマスは過ぎていった。
その日、ヘタレ気味の久遠が、どこまで俺に迫って来たかは、ご想像にお任せする。
因みに、久遠からのプレゼントはモコモコの白いマフラーでした。



END



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