▼ 同級生


自販機のすぐ側にあるベンチ。
そこへ座り、パックの苺牛乳を啜る。
無駄に甘ったるいピンクの液体、俺はこれが好きだ。
ぼうっと空を眺め、ズルズル音を立てていると、ふいに影がさした。



「汚い音を立てるな」

「……灰田」



ベンチに座る俺の前、眉間にシワを寄せた、灰田 総史が立っている。
俺は小さく息を吐き、ストローを外す。
コイツは相も変わらず、些細な事で俺に突っかかって来る男だ。
『これでいいか?』と、普段は身長差から見下ろすばかりの灰田に上目で問う。
いつもは感じないが、不機嫌顔の彼に見下ろされると、妙な迫力がある。
ふんっ、と灰田は、鼻を鳴らした。
どうやら“お許し”が出たらしい。



「赤羽、今日は何の日か知っているか?」

「…………さぁ? 知らねぇな」



すぐに立ち去ると思っていたが、灰田にそんな気は無いらしい。
ニヤリと嫌な笑みを浮かべ、尚も俺に絡む。



「今日は、ハロウィン」

「……ハロウィン?」

「ああ、知っているだろ? 菓子を寄越さねぇと、“悪戯”してもいい日だ」



そう言って灰田は、右手を俺に差し出した。
これはつまり、菓子を寄越せと?
さもなくば悪戯とゆう名の嫌がらせを受ける訳か……
子供っぽい行事に興味は無いくせに、コイツは菓子よりもソレ(悪戯)が目的なんだろう。
ポケットの中を漁った所で、財布以外、物は入っていない。
俺は仕方なく、両手を上げた。



「ハッ、菓子が無いなら大人しく、悪戯されるしかねぇな」

「……待った。それなら俺も、お前に菓子を要求する」

「………………」



今度は俺が、ズイと右手を差し出す。
すると灰田は、暫し沈黙の後、ブレザーの内ポケットから何かを取り出した。
コロンと右手に置かれたのは、緑色した銀紙に包まれたチョコレート。
抹茶……チョコ?
もしかしてコイツは、普段から内ポケットに菓子を隠しているのだろうか?
少し驚いて、灰田を見上げる。
彼はバツが悪そうに視線を反らした。
キラリ、灰田の銀に近い灰色の髪が日の光を反射する。
ハロウィンと言えば……そうだ、



「……灰田は吸血鬼を連想させるな」

「……あ?」

「……髪は灰色だし、目付きも鋭い。冷ややかな雰囲気に、モノトーンが似合う。何より人に噛み付く辺りがよく似てる」

「なんだと、テメェ」



キッと鋭く俺を睨む。
何となくだが、そう思ったから仕方がない。
軽く肩を竦めると、灰田はチッと舌を打ち、俺のシャツ――襟元をグッと掴み、首筋へ思い切り歯を立てた。



「……っ!?」



痛みに顔が歪む。
反射的に灰田を払い除けると、ヤツは口元を手の甲で拭い、鼻で笑った。



「……俺が吸血鬼なら、お前は大層、食欲をそそる色をしている。髪も目も真っ赤。血の色だ」

「……だからって、お前な」



噛み付かれた首筋をおさえ、ヤツを睨む。
それを気にせず、灰田は言葉を続けた。



「それに、吸血鬼は寿命が長いらしい。退屈で終わりの見えない人生を生きるってのに、お前みたいにムカつく野郎がのうのうと死んでいくのは許せない。だから先ず最初に血を吸うとしたら、お前だ。吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になるそうだからな」



カチャリ眼鏡をかけ直し、不愉快そうに話す灰田に力が抜ける。
何なんだ、それは……
俺はもう付き合いきれないと、ベンチから立ち上がった。



「おい、赤羽! テメェまだ“嫌がらせ”を受けてねぇだろ!」

「……“嫌がらせ”じゃなくて“悪戯”だ。それならもう、首筋を噛まれた」

「ああ゛? んなのノーカンだろ! って、おいっ! 畜生、やっぱムカつく!」



ひらひら手を振って校舎を目指す。
灰田はギャアギャアと騒いでいたが、全てを無視する。



「……首筋を噛まれて、更に嫌がらせを受けるなんて冗談じゃない。それに……あいつが吸血鬼になったら、俺も吸血鬼にされる? 何十、何百、何千年と灰田の相手をするのかよ……本当、勘弁してくれ」



ハァ、と息を吐いた俺の口は、両端が軽く持ち上がり、笑みを浮かべていた。

――冗談じゃない。

そう思うのに、このワクワクした気持ちは何だろう。
まぁ、そんなモノどうでもいいか。



END



12.1102
遅れてUPのハロウィン小説
灰赤はこれくらいにホモしてくれるのが理想
 
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