▼ お譲りします。続編


1日の仕事も終わり、ふと携帯を開いてみれば、新着メールが2件届いている。
メールの送り主は2通共同じで、最近できた俺の恋人、隆君から。
1通目の内容は『飯食うなら早めに連絡よこせ。』
2通目は『どうせ今日も食うんだろ。今夜は鍋。』
と、絵文字1つ無く綴られている。
しかし俺は、そのメールに頬を緩めずにはいられない。



「あれ?司君、お疲れ様。今日も隆君からメール?」

「小林さん、お疲れ様です。ええ、今夜は鍋らしいですよ。」

「へぇ、羨ましいなぁ。……それにしても、何だかんだで上手くいってるんだね、司君と隆君。」

「ははは、おかげさまで。」

「最初は押し掛け同然で始まったのに、世の中どう転ぶかわからないね。」



会社前で偶然出会った俺の元上司(今は違う部署)に声をかけられ、少し立ち話し。
彼の言う通り、世の中はどう転ぶかわからない。
小林さんは俺の元上司であり、元彼……まだ俺達が交際中に隆君と出会い、俺が猛烈アタックをした。
それは¨押し掛け同然¨と言うより、まさに¨押し掛け¨。
そして不本意とは言え、恋人だった小林さんを裏切り、今の俺がある。



「はは、彼からしたら、今も¨押し掛け¨らしいですよ。」



『それじゃあ、そろそろ¨押し掛ける時間¨なので失礼します。』と、小林さんに頭を下げ、俺は足早に彼の住むアパートへ向かう。
小林さんは隆君の隣りに住んでいるが、一緒に帰る事はしない。
俺は少しでも早く、彼の元へ向かいたかった。







ピンポーンと呼び鈴を押せば、すぐにドアが開いた。



「ただいま、隆君。」

「…………なにが¨ただいま¨だよ。ここは俺の家だからな!」



ふんっと鼻を鳴らす隆君は、初めて俺がこの家に¨押し掛けた¨時の気弱さはない。
けど、小さく『おかえりなさい。』と言う彼は、前にも増して可愛かった。



「ああお腹空いた!今日もこうして隆君の手料理が食べれて俺は幸せだな。あ、きのこ入れてないよね?」

「勝手に押し掛けて来るからこっちは迷惑だけどな。……きのこも食えよ、いい大人のくせに。」



ぶつぶつ文句を言いながら、きのこをよけて俺の皿に鍋を取り分ける隆君は将来いいお嫁さんになる。



「でもさ、あれなら食べれるよ!隆君が作ってくれた和風ハンバーグ!きのこが細かくお肉に紛れてるし、すっごく美味しいよね!あれ好きだなぁ。」

「っじゃあ明日はソレ作るか!」



褒められた事が嬉しいのか、パアッと笑顔になった彼に、思わず笑ってしまう。
すると、隆君は真っ赤な顔で口を尖らせてしまった。



「きのこが……余ってるから、丁度いいんだよ。」

「ふふ、ありがとう。」

「っ〜…ニヤニヤすんのやめろよ!あんたの勘違いだからな!」

「うん、わかってる。でも、ありがとう。」



俺は嬉しいのだ。
好きだと言ったハンバーグを作ってくれる事も、自然と¨明日¨を考えてくる事も、全部。



「もういっそ、一緒に住んじゃおうか?」

「……っ!……な、なに言って、」



ピンポーンと先程同様、聞き慣れた音に会話が中断される。
隆君はこれ幸いと、逃げるように玄関へ行ってしまった。



「ちぇっ、残念。」



1人ごちて居ると、玄関から話し声が聞こえて来る。



「あれ、小林さんと……大木さん?どうしたんです、急に。」

「さっき司君に鍋だと聞いてね、羨ましいから混ぜてもらおうと思って。ホラ、材料も買い足して来たから。」



『わ、こんなに沢山!』とパタパタ駆けて来る足音がして、次いで隆君が顔を出した。



「小林さん達が買って来てくれたんだ。急いで作り足さなきゃ!!」



『すまないね。忙しい所、急に押し掛けて。』と申し訳なさそうに姿を見せた大木さん。
その隣りには小林さんも居る。



「いいえ、慣れてますから!!」



とキッチンから隆君が返事を返す。



「ははは、よく出来た奥さんでしょ?」

「本当にね。」

「まったくだな。」



俺の言葉に2人は同意した。
何だかんだで、このメンツで食卓を囲む事も少なくない。
これはこれで、楽しいしね。



それに、いざとなれば……――






¨押し掛け夫¨も悪くないかな?






なんて。
今はとりあえず、隆君が作ってくれた料理を堪能するとしよう。



END



12.0319
司は隆に食費を払ってます←

『お譲りします。』の攻め視点で、交際後のギャップ萌。とリクエストを頂きました!!(^^)
が、ギャップ……萌;
一応、隆君はツンデレだったんだぜ!!的な文を目指しましたが、伝わり難いと言うか、これが限界でした;
ちょっと色々と不安ですが、夏目様、素敵なリクエスト有り難うございました!!^○^
 
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