▼ 同級生


カリカリ休む事無く動かし続けたペンを置き、俺は『ん゛ーー』と伸びをした。
気が付けば窓の外は真っ暗だ。



「今日は普段よりはかどったな。」



常にかけていた眼鏡を外し、目頭を揉むと、休憩する為自室から1階へと足を進める。
誰も居ない空間は静かで、とても寒かった。
俺はすぐに暖房をつけると、お湯を沸かしにキッチンへ向かう。
今は温かい緑茶が飲みたい気分だ。
茶箪笥から湯呑みを取り出し、茶葉の入った缶にも手を伸ばす…………が、異様に軽い。
振ってみても音はしないし、まさかと思い開けてみると、中身は空っぽだった。
この家は俺以外、ほとんど緑茶を飲まないし、買い置きがあるとは思えない。
何より、朝から両親が居ない今、あった所で自ら探さなくてはならない…………そんな事は面倒だ。



「仕方無い、買いに行くか。」



珈琲で済ます事も考えたが、どうにも気分じゃない。
それに、1日中部屋に篭もって勉強をしていたのだ。
少しくらいは外に出るべきだろう。
そうと決まれば黒いマフラーと手袋、上着を羽織い、準備を整える。
『ちょっと遠いが、駅前のコンビニへ行こう。』そんな事を思いつつ、俺は家を出た。













「チッ、今日はクリスマスかよ。」



駅に近付くにつれ、人の数が増えていく…………休日だからって理由にしちゃ多過ぎる程だ。
不思議に思い辺りを見回すと、キラキラ電飾が光り、プレゼントを抱えた子供や、幸せそうなカップルが目についた。
俺は思わず舌を打ち、歩調を早める。
今日がその日だと分かっていたら、駅前に来なかったし、不愉快な思いもしなかった。
俺は人混みも、チャラついた行事も大嫌いだ。



「……夫婦揃っての外出はそう言う事か。」



今更その事実に気付いた自分を罵ってやりたい。
とは言え、折角ここまで来たのだ。
さっさと緑茶を買って帰ろう!



「…………っ、あいつ」



あと数歩でコンビニと言う所、赤い髪をした、やたら長身の男が店内から現れた。
赤羽亮輔……奴は俺が最も気に入らない男No.1の同級生だ。



「おい、赤羽!!」

「…………灰田。」



俺が声をかけると、赤羽は目を見開いた後、あからさまに面倒そうな顔をした。
俺だってお前に会いたくはない!!



「赤羽……お前、何してんだよ。」

「……何って別に……今は学校じゃねぇし、お前にケチ付けられる覚えはねぇけど?」

「っ!!……相変わらずムカつくな、お前。」



はぁ、と小さな溜め息を吐く男に益々腹がたった。
まるで俺が普段からケチばかりつけてるみたいじゃねぇか!!



「……そんなに睨むな。ホラ、これやるよ。」

「……これは……緑茶?」

「そ、札くずすのに買ったやつ。」



ガサリと袋を手渡され、中身を確認すると、そこには俺が求めていた緑茶が……しかも、濃い方。



「……お前、よく緑茶何て買ったな。外見に似合わず大好きな¨苺牛乳¨はどうしたよ。」

「……レジ付近にあったから。」



『でも、買っといて正解だった。』と、俺を見やる男は、赤い髪に白いマフラー、人の欲しい物をピタリと当てる……――



「サンタクロースみたいだな。」

「あ?」

「っな、何でもねぇよ!!いいか、赤羽!!お前ここを動くなよ!!俺が戻るまで、絶対!!」



そう言い付けると俺は、急いで店内のジュース棚に向かい、数種類ある苺牛乳の中から、赤羽が¨よく飲んでいる1つ¨を手に取り、レジへ並んだ。



「っホラ、お前は¨コレ¨だろ。」



店を出ると、入り口付近に立っていた男に苺牛乳を押し付ける。
『お前に奢られっぱなしは気持ち悪い。』と言えば、小さく笑った気がした。



「じゃあ、俺は帰る。お前と違って忙しいからな。」

「……ああ。」



くるりと踵を返し、家路につこうとした時、普段より大きな赤羽の声が聞こえて来た。



「……灰田、メリークリスマス!」



っ!!



俺は後ろを振り返る事なく、その場を後にした。
――……手には緑茶の入った袋を握り締めて。













「……ぬるい。」



家に着くと俺は、すっかり冷めてしまった緑茶をゆっくり飲み干した。



体温は依然として低いままなのに、ポカポカするのは何故だろう?



そんな事を思いつつ、両親が帰って来るまでの間、再び机に向かい、俺のクリスマスは終わりを告げた。



END



11.12XX
・クリスマス
灰田が寂しい子になった!笑
本人は気付いてないけど←
作者も今年はクリぼっち予定ですw
 
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