▼ 健気美形×性格男前


朝、学校に着いてすぐ、いつにも増して機嫌の良さそうな佐藤を見つけた。
佐藤は穏やかな性格で、モデル並みに容姿が整ってるもんだから、女子が放っておかない。
現に今も、階段から少し離れた場所で、普段の3倍は輝きが増しているだろう佐藤に、女子が群がっている。
俺はその群れを横目に、階段を上がろうとした時、佐藤がいそいそと駆け寄って来た。



「お、おはよう、塩田。」

「ん、ああ、おはよう。……お前、今日は朝から随分と機嫌が良さそうだな?」

「うん。今朝、数を数えてみたらピッタリ100個あって、それが何だか嬉しかったんだ。」

「……数?……100?…………まぁ、何の事かよく分からねぇけど、とりあえず良かったな。……それより、あれほっといて平気か?すげぇこっち見てるけど。」



チラリと女子の集団に目をやれば、佐藤も気が付いたのか苦笑いをしている。



「ホラ、これやるから頑張って行って来い。」

「っ!!ピンク色!!」

「ああ。お前、苺味が1番好きだろ?」



そう言ってポケットから、ハート型の小さな飴玉を手渡してやる。
それを受け取った佐藤は、とっても嬉しそうに礼を言うと、再び集団の中へと戻って行った。
恐らく、あの集団には1年や3年の他学年から、違うクラスの奴まで居るはず……チャイムの鳴るギリギリまで、離してはもらえないだろう。
俺は内心で佐藤を応援しながら、後でもう1度飴玉をやろうと考えていた。






――きっかけは入学直後の自己紹介






「佐藤 天音です。漢字は違うけど、サトウなだけに、甘い物が大好きです。」



にこりと笑った男に、女子から小さな歓声が上がった。
俺は佐藤を見上げ、面白い奴だ。と、感じた事を覚えている。



『サトウ』に『シオ』……これはある種の運命かもしれない。



「なぁ、佐藤。甘い物が好きならコレやるよ。…………可愛いだろ?」



そう、確か初めて奴にあげた飴玉も、ハート型をした苺味。
一瞬の間が開き、戸惑いつつも嬉しそうに受け取った佐藤は、その飴玉を…………



――――――――――



「うわっと、ギリギリセーフ。」

「…………お疲れさん。」

「あはは、ありがとう。でもさっきコレ貰ったから心は元気だよ?」

「そりゃ良かった。じゃあ、オマケで普通の丸い飴もやる。コレ舐めて糖分補給しとけ。」

「わぁ、ありがとう!!」



不思議な事に、佐藤は¨ハート型の飴玉¨を、決して口にはしない。
代わりに、他の飴玉は喜んで食べる。
理由を聞けば『秘密』と言うし、ハートをやらんと『くれ』と言う。
包みに貰った日付を書いて、大切に保管……1年前、初めてあげた飴玉も、今だに残っていると言っていた。
正直、奴の行動が理解できない。
それでも、俺の鞄やポケットに、飴玉が絶えずあるのは、十中八九、佐藤の為。



――何だかんだで、大切にされる飴玉が嬉しいのだ。



「少なくともこの1年、去年同様、飴玉を買っとく必要があるな。」



俺は小さく呟くと、飴玉で膨れる佐藤の頬を見て、無意識に笑った。



11.0902
 
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