▼ わんこ×無頓着
ある日の朝、学校へ着くと、俺の机に1冊の本が置いてあった。
タイトルは『犬の気持ちを考える』
俺は首を傾げずには居られなかった。
何故なら家は、ペット…………犬を飼っていないからだ。
しかし、この本にはご丁寧に『坂根 時弥へ』と、書かれており『これを読んで勉強しろ!!』と、まであった。
一体何を学べと言うのか…………
とりあえず、付箋の付いたページを開いてみる。
『愛犬のストレス』…………そんなサブタイトルが書かれたページの、丁度真ん中の辺り。
5、6行の文を、これまたご丁寧に、ピンク色の蛍光ペンを使い、アンダーラインが引かれていた。
その文を要約すると『仲間を増やす場合、以前と変わらず先住の犬を構ってあげよう』みたいな事が書いてある。
環境が変わる事はストレスであり、相性の悪いペットだと尚更……食欲不振、不眠等、健康に害を及ぼすとか。
とは言っても、ねぇ?
「トキ、おはよ。」
「おお、マメおはよう!!…………あーーお前最近、顔色悪ぃな。少し痩せた気もするし……大丈夫か?」
「…………食欲、ない。」
「……そうか。隈も出来てるし、睡眠も禄にしてねぇの?」
コクンと小さく頷き、マメは自分の席……俺の1つ前に腰を下ろした。
マメとは、間宮 恵琉の略で、仲良くなってすぐ、俺が付けた呼び名だ。
口数は少なく、背の高い、モデル並に格好良い男なのだが、ふとした瞬間、見せる仕草が犬の様で可愛い。
そんな彼に、ピッタリだと思う。
「………………トキ、犬飼うの?」
「…………え?」
「これ、本…………犬、飼う?」
『また、時間減るの?』そう言って、とても辛そうに表情を歪め、腹部を強くおさえ付けていた。
腹、でも痛いのだろうか?
「おい、マメ、大丈「っトキ、ごめっ、無理。」
俺の言葉を遮り、口元を手で覆うと、凄い勢いで教室を飛び出した。
その時に見た、マメの顔色は、とても青白く、心配になる。
「…………あいつ、マジで大丈夫か?」
そこでふと、表紙の犬が目に入る。
つぶらな瞳の可愛いわんこだ。
これは…………でも…………
俺は少し考えた後、再び本を開いた。
この本はあくまで『犬用』…………分かっちゃいるけど、マメに対しては通用する、気がした……送り主もそう思ったはず。
*
「…………とりあえず、構ってやれば良いのか?」
先程流した文を、今度は咀嚼しながら読み進める。
その結果、『兎に角、構う』と、言う答えにたどり着いた。
『構ってもらえない』そんな事を、マメがストレスに思っているか……この対処が正しいか、正直謎だ。
しかし、それが正解だと思った。
……あれか、最近、委員の仕事で昼も帰りも草取りしてたから!!
美化委員、サボリ過ぎて、教師が切れたもんな。
……それともあれか、近所のチビが懐いて可愛いっつう自慢話し!!
休日もチビと、遊び倒したもんな。
……いや、メールの返信率?1人で行った映画館?一緒に行くって言ってたし。
ああーー考えれば考える程、心当たりがあり過ぎる。
「…………迎えに行くか。」
HR開始3分前。
未だに教室へ戻らないマメを、探しに行く事にした。
恐らく、トイレに駆け込んだはず…………そう思い廊下へ出ると、不安そうに此方を伺うマメが居た。
「…………トキ、チャイム鳴る。教室に入ろ?」
「いや、今日は昼までサボる。」
「っ!!何で?!」
『嫌だ嫌だ』と、首を振るマメの頭を撫でてやる。
優しく笑いかければ、少し落ち着きを取り戻した。
「マメ、俺と一緒にサボるか?」
「っ!!サボ、る!!」
――――――――――
「…………なぁ、マメ。少しは気分良くなった?」
普段は行く事のない屋上。
意外にも、あっさりと入れるこの場所は、空も近くて、なかなかに良い。
……そこで、自分より些かデカい男に肩を貸し、重みに耐えながらも、会話を楽しんだ。
「…………気分?」
「そう、気分。さっきまで……いや、最近、体調悪そうだったし……その原因がストレス、っぽいから、さ。」
「…………ストレス。トキ、知ってた?俺の、こと。」
「んーー……、知ってたっつーか、うーん……俺が原因、だったりする?」
「…………………………トキ、最近、俺と居てくれない。それは、嫌。………………そう思ったら、元気、出なかった。」
肩にグリグリと頭を押し付け、鼻を鳴らすマメに、少しだけ罪悪感を感じる。
やはり、俺の思い過ごしではなかった。
あの本は、正しい。
まぁ…………『犬用』だけど。
『ごめん。』と、頭を撫でてやれば、更にグリグリとすり寄って来る。
俺が思ってる以上に、マメは俺に懐いてるのかもしれない。
そう思うと、無性にマメを構い倒してやりたくなった。
「マメ、実は今日、草取り免除の日なんだ。チビとは昨日、遊んだし……放課後、久しぶりに寄り道して帰るか?」
「っ!!いい、の?」
「ああ、勿論。……それに、今日からマメとの時間も大切にする。1人にして、ごめんな?」
「っ…………!!トキ、すき!!」
あるはずの無い、耳と尻尾。
それらを使って、喜びを露わにするマメが見えた……気がする。
何処の誰かは知らないが、素敵な『本』をありがとう。
あなたのお陰で、大切な事に気付けたよ。
「したら、マメ。膝貸してやるから少し眠れ。寝不足じゃ楽しく遊べねぇぞ?」
「っ!!!!」
わんこって、可愛いですね。
END
11.0816
ストレスによる体調不良が書きたかっただけ←
本の送り主は、マメのファン(愛犬家とも言う)。