▼ 同級生


――――ザァザァと喧しい雨だな。



昇降口に佇む俺。
傘立てにはボロ傘が数本。
鞄の中を漁ってみても、雨具は入っていなかった。
そりゃそうさ、入れた記憶など微塵も無いのだから。

……さて、どうしたものか。

このまま濡れて帰るのは構わない。
だが困った事に、俺の鞄には友人から拝借した漫画が2冊。
防水加工など、とうに剥げ落ちてしまったボロボロの鞄では、本を守りきるには心許ない。
時刻は17時と30分。
居残りしたせいで、辺りに人影は無い。
傘をパクろうにも、これじゃあな。



「あれ、……元気(モトキ)?」

「おう、那智か。丁度良い所へ来た。委員会でもあった?」

「うん、そう。元気は……傘が無い、とか?」

「その通り。」

「天気予報見なかったの?降水確率80%越えてたけど。」

「見ない。それに朝は晴れてた。」



『ハァ、だからって……』と、眉間にシワを寄せ靴を取り出す那智を見る。
せっかくの男前が台無しだ。
そこだけが自慢の友人なのに……とは、殴られるから言わないでおく。



「それで、雨が止むまで待つつもりだったの?」

「ああー正直悩んでた。俺としては、濡れても良いから家に帰りたいんだけど。」

「?……じゃあ何で?」

「ほら、鞄の中にお前の漫画あるし。濡れてヨレヨレになったら怒るだろ?」

「……そりゃまぁ。」

「で、だ。お前はどっちが良い?」

「……は、何が?」

「お前が右手に持ってるその傘を俺に渡すか、漫画がヨレても仕方ないと俺を見捨てるか……10秒で選べ。」

「ちょっと待てよ、何だその選択肢。漫画を俺に返して、後日晴れた日に借り直すとか、他に無いのかよ……。」

「…………無い、な。」



そう答えると、那智は本日2度目の溜め息を零した。
この短時間で彼は、2つの幸せを逃した事になる。



「それに言っただろ、丁度良い所に来た。って。それは傘を借りられるかもって期待と、漫画がヨレたらゴメンね?と言う保険をかけられるからだ。那智じゃなきゃ駄目な丁度良い所。OK?」

「っOKじゃない!……俺がお前を見捨てたとして、家帰っても漫画は読めないだろ。濡れてんだから。」

「ドライヤーは万能だ。」

「………………わかった。もう良い、傘貸すから大人しく帰れ。」

「マジか?……お前はどうすんの?」

「もう少し様子見て帰る。止みそうも無いけど……」

「お前、すぐ風邪引きそうだよな。」

「どう言う意味だよ……」

「漫画、諦めれば?したらお前は濡れずに帰れるぞ。」

「何だそれ。元気が漫画を返してくれりゃ、丸く収まるのに。」

「解せぬ。」

「…………そうかい。まぁ、元気が引くくらいなら、俺が引いてやる。ホラ、早く帰れよ。」



仕様がない……と、我が子を見る様な目で傘を差し出す那智。
自己犠牲心旺盛だな。

グイッと押し付けられた傘を見やり、顔だけが自慢……とは些か失礼だったと思い直す。
こいつは立派な¨オカン¨だった。



「なぁ、隠していたけど実は……とっておきの秘策がある。」

「秘策?」

「そう、俺とお前、どちらも雨に濡れず帰れる方法だ。」



そう言うと俺は、バサリと傘を広げ、外へ足を踏み出した。



「相合い傘、だ。」

「っ!!」









家に着いて漫画を取り出すと、端っこがふやけていた。
後日、那智に「傘のサイズが悪かった……」と、反省点を告げれば「いや、あのサイズで正解だったよ。」と、何故か嬉しそうに笑っていた。



END



11.0621
 
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