「ねぇ、クルル」

隊長の部屋で少し離れた場所に向かい合って座っていた隊長に話し掛けられた。
俺はちらりと隊長を見た後「あー?」と生返事を返す。上司に対する口の聞き方とは考えられないが、隊長は気にしていないみたいだ。むしろ以前素直な感じがしていいとさえ言っていた気がする。セクハラ上司か。
それはともかく、隊長は俺の返事を聞いて話を続けた。

「実はさー、今まで言えなかったんだけど」

「あんたにも言えなかった事とかあんだなぁ」

カチャカチャと手元にあるガンプラを弄りながら言う隊長に、俺もカタカタと手元にあるキーボードを弄りながら聞く。
そう感慨深く言えば、隊長の少し大きな声が聞こえてきた。

「失礼な!まあ、それは置いといて」

一人で怒って一人で落ち着いた隊長を俺はぼんやりと見つめる。少し可哀想な気持ちが浮かんだが、口にはしなかった。
隊長はカチャカチャとガンプラを弄ったまま口を開く。

「我輩さ、実はクルルの事嫌いなんだ」

その言葉に俺は一瞬キーボードを弄るのを止め、「はあ」と気の抜けた返事と共に再開した。
それが隊長の何かに引っ掛かったらしい。さっきまであんなに弄っていたガンプラを放り出し、隊長はバンバンと床を叩いた。

「何よその空気の抜けた返事ぃ!だーかーらー、我輩クルルの事嫌いなの!」

再び言う隊長に、俺は画面に向けていた視線を上げた。
前には唇を尖らせて不貞腐れている隊長が座っている。放り出されたガンプラはまだ部品が切り離されているだけだった。
どんな反応をしてほしかったのかは分からないが、ガンプラを弄ってさりげやさを演出したり軽い言い方にしたり、何かあると分かり易すぎる。
まあ、隊長の演技はバレバレだったってのもあるが、一番の要因はこれだ。

「いや、そんなカレンダーバックに言われてもなぁ」

4月1日と堂々と書かれたカレンダーがそんな自己主張してたら、まあバレるよなぁ。
隊長は本気で気付いてなかったのか、勢いよく後ろを振り向いて奇声を上げた。

「ゲローッ!?まさかの失態であります!」

自分の部屋にある自分で張ったであろうカレンダーに、本人は気付いていなかったのか。そう思うと、自然と口角が上がった。

「あんたホントに馬鹿だなぁ。丁度いいじゃねぇか、四月馬鹿に馬鹿が阿呆な失態。中々出来ねぇぜ、隊長」

「褒めてんのか貶してんのか分かりにくい!」

「貶してるだろ」

「褒められてなかった!」

我輩ショック!と嘆く隊長に、俺は呆れたように笑う。

「隊長今日テンション高ぇなぁ」

「そりゃあクルルとのイベント事ですから。高くもなるってもんでありましょー?」

「そんなもんかねぇ」

「そんなもんだよーん」

先程のショックももう忘れたのか、隊長は楽しそうにゲロゲロと笑う。
やけに楽しそうなその顔に、俺はもう一度そういうもんかねぇと思い隊長を眺めた。
俺が部屋に来てもう結構経つ。という事は隊長がガンプラを作り出して結構経つという事だ。それなのに、ガンプラはまだ切り離されただけ。
切り離されたガンプラの部品を眺めて、俺は画面に向き直って言った。

「はぁん。じゃあしょうがねぇなぁ、乗ってやるよ」

「え!?マジで?ついにクルルからの『大好き』が聞けるの?あ、でも今日はエイプリルフールだから『大嫌い』かな。あ、でもでも、意味は『大嫌い』でもクルルからの『大好き』って聞きたい!」

「気持ち悪ぃ」

「それは『気持ち良い』って事?って嘘でありますよ!そんな冷たい目で見ないで!」

本気で気持ち悪いと思った。こいつこんな変人だったっけ、変人だったか。
すごい表情をしていたのだろう、俺を見た隊長はニヤけていた顔から一変して、慌てたように手をばたつかせていた。
そんな隊長に俺は大きなため息を一つ吐く。隊長がそれにビクついているのが何だか面白かった。

「隊長、知ってるか?」

唐突にそう切り出せば、隊長は「うん?」と首を傾げる。
俺は気にせず話を続けた。相変わらず、キーボードを弄る音は止まらない。

「エイプリルフールにはな、1564年から13年毎に『嘘の嘘をつく日』ってのがあるんだ。つまり『本当』の事しか言っちゃいけないんだとよ」

「ふぇー、そんなのがあるんでありますかー。もしかして今年がそれとか?」

「いや、次は2019年だ」

「そうなんでありますか。何かちょっと残念であります」

俺の言葉に隊長は唇を尖らせた。『嘘の嘘をつく日』という存在も知らなかったのだろう、その顔は妙に子供染みていた。
俺はキーボードを弄っていた手を止める。カタカタという音がなくなった部屋は、二人の存在を明確にしたような気がした。
隊長を見詰め、俺は言う。

「だが、それはあくまでも地球の暦だ。ケロン星の暦を地球の暦に合わせてみると、丁度今年なんだよ。いいか、この事をしっかり覚えとけよ」

「え?何で?」

念を入れて確認すると、隊長はぽかんという、意味が分からないと如実に表した顔をした。
俺はそんな隊長の顔に、わざとらしく純粋さも含ませた笑顔を向けた。

「隊長、俺はあんたが『大嫌い』だぜぇ」

「・・・え?え、え?」

笑って言ったその言葉に、隊長は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。今までで一番呆然としている顔に、俺はにやりと笑ってパソコンを閉じた。

「よかったじゃねぇか。これで俺とエイプリルフールを過ごせたぜ?」

「ありがとうであります・・・じゃなくて!え?今日はエイプリルフールで嘘つく日で、でもケロン星だと本当の事しか言っちゃダメな日で、え?どっち?」

呆然としたまま返す隊長は、きっと今頭の中がぐちゃぐちゃの筈だ。
隊長の胸は混乱と不可解でいっぱいになっている。そう考えて、俺は愉快な気持ちでいっぱいになった胸と一緒に立ち上がった。

「クッークックック〜、まあ頑張って悩めよたいちょー。んじゃあ俺はラボに戻るからよぉ」

パンパンと尻を叩く。床に座っていたからか、尻が痛かった。
こんな冷たくて硬い床に俺は何時間座っていたのだろうか。そんな事を考えて隊長を恨めしく思ったが、結果的に俺が楽しめたからまあ良しとしてやろう。
展開についていけなかった隊長は、俺がスイッチを取り出した事で漸く理解したらしい。慌てて止める情けない声を出した。

「え、あ、ちょっと待ってクルル!」

そんな隊長の言葉を尻目に、俺はパソコンを持ち上げる。
そして前でガンプラを避けながら俺に手を伸ばしている隊長を見下ろして、俺は嫌味たらしく笑った。

「クックッ、んじゃあな〜。ポチッと」

スイッチを押す。
消える間際に、隊長の叫び声が聞こえてやはり笑った。

「ちょ、どっちなのよーーーっ!!」






真心アントルー



さあどっちでしょう、恋人さん?



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