「あれはそうよ月もない夜だったわ。」ほんの少しだけ酔っていたアタシは街灯の薄暗い光を頼りに土手を歩いていたの、「ふと後ろから足音がするから思わず。」道も狭かったから夜露に湿った草むらに足を下ろして振り向いたわ、「聞こえた声が何だかオカシかったの。」走る音/歩く音/荒れた呼吸/漏れた悲鳴/ワライゴエ、「逃げようとも思ったのだけれど。」そこそこ急な坂道にしゃがみ込んでちょっとだけ様子を窺おうとしたわ、「視界に入ったのはよろめいて走る男。」まるでナニカに怯えるかのような顔つきで後ろに向かって叫び声を上げている、「あそこからじゃ他には何も見えなくて。」良くない事が起こるんだわと逃げ出すのも忘れて異様な雰囲気に身を置いていたの、「男の後ろをゆったりと歩くのは少年で。」口から洩れる微かな笑い声と手元で光る物体だけがその存在をゆらゆらと映していて、「気付かれないように息を殺していたわ。」痩せこけた男しか眼中にないかのように足取りもまるで夢遊病者のそれでしかなく、「ふいに少年の足が眼前で止まって。」心音が脳味噌にまでずくりと響いて眼球すら動かせずにかさついた唇から無言のSOS、「彼は気付いていなかったの男男男しか。」彼でも男でもない第四の声がアァどろりと囁いたのだ逃げられないニゲラレヤシナイ、「再び彼が歩き出すと一目散に逃げ出したわ。」見ない方が良かったかもしれないのに一度だけ振り向いた光景が網膜に焼き付いて離れない、

『目撃者ノ女性二依ルト午前零時過某所ノ河川ニテ悲鳴ヲ上ゲナガラ逃走スル一人ノ男ヲ確認、追跡者ハ二人ノ少年トオボシキ人物デ一人ハ凶器ヲ所持シテイタトサレルガ、凶器及ビ犯人ハ未ダ見付カラズ。』

「あとは、何も知らないわ。」
(そう、なあんにも、聴こえない。)





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -