「なにも、」
「知りません。」

あんまりにも甘い毒。口にすればたちまち天国、量を間違えたなら奈落。(そんな『ばか』なこと俺はしない。)適度に、そう適度に呟けば良い。あいつは悪いけど俺はなんにも悪くないからだから、(なんだってあの女は俺を見たって言うんだ嗚呼!)
視界の端には濁った眼球をぐるりと回しながら何かぶつぶつとぼやいている男、向かいにはテキトウな捜査の所為で連れて来られた可哀想な『無』関係者たる俺、別の部屋には興奮気味な化粧の濃い年増女、何処か安全な所にアイツ、そして土の中に、

「ホントウに何も、」
「知らないんです。」

目の前の男もニンゲンで疲れきった手で書類を捲っているのがなんだかとても可哀想で仕方なくてそしたら誰もかもが可哀想になってきてどうして、どうしてニンゲンこんなに可哀想なんだろうと考えていたらあの時から纏わり付いて離れないぞわぞわした気持ちの悪い快楽を忘れられそうな気が、した。

「ごめんね、」
「、っ。え?」
「疲れているだろうに巻き込んで」
「いえ、いえ、いえ良いんです。」
「もしかしたらまた話を、」
「分かる範囲で良ければ。」

最期の最後に知りませんと言えなかった俺はまだニンゲンだ、男の濃い隈を見ていたらなんだか無性に声を上げて泣きたくなった。

「ごめんなさい。」
「ぜんぶ、しってます、」


(ニンゲンどうしてこんなにも。)





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