グ ロ テ ス ク ブ ル ー


『目を開いたまま植物のように昏昏と眠る少女の視線のゆく先はいつも見えない檻で薄い紅く揺らめくサカナだった、機械ばかりに埋もれた青黒い部屋にそれは奇妙に映えている。動きもせず言葉も発しない少女はけれども、確かに逃げないサカナだけを延延と見続けていた。』

『脳を患った筈の少女にはそもそもサカナをサカナと認識することすら叶わないのにそれが蒼に近い緑の水草に隠れでもすればひどく体の調子を悪くするのだ、まるで部屋に溶けて消えてしまいたいかのように呼吸はそのままに白い肌をおぞましい青黒へとじわじわ変える。再びサカナが姿を見せれば何事もなかったかの如く白い肌で青黒い空間に静かに抱かれた。彼女がここに来て随分経つと水草は死んで腐り落ち、そして相変わらずサカナはゆらゆらと赤い。』

『この部屋で少女が二度目の誕生日を迎えたある日、サカナの檻は既に濁りかけていた。水草は腐敗し水面は泥泥とした液体に覆われてえずくような臭いを発している。悠悠と流れていたサカナは檻に頭をぶつけながら悶え苦しんだものの遂に赤みを帯びた黄金の腹をぷかりと天井に向けて事切れた、その時微動だにしない筈の少女の黒くて長い睫毛が小さく震えたのも、形の整った唇が小さく開かれ細い言の葉を吐き出したのも、見た者は、いない。』

『しかしながらそもそも、この一連の出来事すら不確かに曖昧な存在なのでした、扉も窓もない空間には少女とサカナはおろかその青黒い部屋があったのかどうかすら分からないのだから。』



11夏/部誌掲載/透明



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