がりがりと音がするので横を見れば奴は錠剤を食べている所だった、白み掛かった茶色の粒を口に運んで咀嚼し呑み込む一連の流れは非常に緩慢である、昔に飼っていた亀のようだ、とも思った。壊れたテレビの前に座りただ薬を食む音に膝を抱えて目を閉じる、(けっして耳当たりなど良くはないのに、)足りない体温が欲しくて這わせた指は冷たい革をなぞるだけで寂しい。
美味いのか。小さな声で訊ねれば食べれば分かると言わんばかりに差し出された小さな一錠を見詰める、甘い匂いのしないソレを奴と同じように噛み砕いてみた。

「う、えぇっ」

余りの不味さに思わずえずく、空っぽの筈の胃袋が反芻して吐いた胃酸は真夏の昼より不快な熱を持って喉をじりりと焼く、(あァ、)歯にこびり付いた残骸がおぞましくて涙も涎も垂れ流した、汚ぇなァと誰かが指を差してワラう。
お前馬鹿だよ、未だ膨張と収縮を繰り返す胃にゆるい憤慨を覚えて小さく喚けば、そうだと言わんばかりの濁った瞳だけがぬるりと動いた、止まらない手と口だけが人でないように忙しない。

「もう」

もう、これで眠らずに済むかと囁く奴はその前に死ぬ気がした、止まらない手、減り続ける錠剤、あの日の記憶。一体誰が悪いのだろうか、死ねば無罪、生きれば有罪、どこに逃げても立ち向かってもどうしようもない苦痛を受け入れることすら疲れてここに居る。

「眠らなければもう誰も、」

青鈍色の視界、消えない雑音、甘ったるい腐敗臭、ざらつく口内。脳内に蚊が飛んでいる。

「ひとごろし」
「ひとごろし」
「ひとごろし」

聞こえない、自分達の他には誰も居ない、こんなのウソだ。何もかもが変わってしまった世界では誰もが敵で奴を守らなければならないのだそう奴を全てから!

(ひとごろし、)

冷たい世界に取り残された奴があんまりにも可哀想で気付けばその折れそうな体を抱きしめて泣いていた、周りだけがあんまりにもキレイすぎてこの小さな部屋で全てが終わってしまえば良いのに、とそのまま静かに目を閉じた。

錠剤を食む音はまだ続いている。


神 経 衰 弱 



10企画/シリアス



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