0.あおいはるはこない

「あしたかもしれないし明後日かもしれないのだけど、だけど例えば君が死ぬと仮定しようじゃないか。まァ仮定などしなくとも君が死ぬのは事実だけれども、さておき」

君は何処に行きたかったの、亀がノロマだなんて大嘘だ。
(遅夏のセミはじくじくと、死に向かって泣いている。)
伝う汗を拭いもしないで、青い空に目もくれてやらない。
(からからりとナニカを、転がす風はすぐに吹き止む。)
私は唯々、かつて動いていた命だけを見つめ続けている。
(不安定な赤を撒き散らして、熱は光を亡くしていく。)
ねェねェねェねェ、やっぱりこれって私が悪いのかしら。
(鳴くこともデキナイそれは、何を思ってこの空の下。)
ならあたしも一緒に乾けばいい、と頭をつついて寝転ぶ。
(ごそりと生温いソレは、極僅かに身動ぎをしたのだ。)
あ、ア。唖?
(鶴は千年亀は万年、いきてるんならお返事チョウダイ)
甘くない炭酸水が 、彼の吐き出す気泡といっしょくたになって少し青いガラスに入ったような空を翔るのが夢なのです。


「おかしいとは思わないかい、たった一つきりの尊いのかもしれないイノチが消え去ったって実は何にも変わりやしない。昨日は来ないし明日は来る、イマは過ぎて定理はそのままアァなんと哀しいコトか!」

今日の午前零時ぴったりにあの子は死んだのです(ソクシって嫌な響きだよね)、日付の変わる十秒前から堅くて生温い地面に激突するまでの最速ジェットコースターで彼女が何を考えていたのかは分からないし知る由もないんだねェ。朝のやけに静かな教室であたしはソレを知ったけどまるでどっかのドラマかマンガみたいねと下らない事を考えていて、(毎日ニュースで流れる殺人事件なんて関係者意外にはひどく遠い存在でしかない。)ふと眼前にあった筈の細い細い蜘蛛の糸がもうない事に気付いた、あーあ死にたいなァ。
あの子が死んだ夜は初めてぐっすり眠れたのそういえば二時か三時に知らないアドレスからメールが届いてムキシツにただ一言『おまえのせいだ。』だなんて、実はあの子のメールアドレスからだったんだって何であたしの知ってたんだろ!ケーサツ曰く遺書はケータイに保存してたのかもしれないけど折角のソレはなんでか一緒に空を飛んでやっぱり午前零時ぴったりにぐちゃぐちゃにコワレて、あれ。
じゃあこのメールなに、


「いちどきりの人生ってヤツだから大体の奴は面白可笑しく楽しく過ごしたいと思ってるんだろうけどなァ、考えてみりゃそのタノシサってのは殆どが無駄なカスも残らない存在なんだぜ、」

「そーいえばさ、」「なに?」「あの二人、付き合う事になったんだって」「嘘、」
「ホントホント、いっつも喧嘩ばっかしてたのにね」「『喧嘩する程仲が良い』ってやつ?」「どっちかってっと『喧嘩するから仲が悪い』イメージだけどなあの二人」
「あ、ホントだまた言い合いしてる」「でも楽しそうだよな」「楽しそうだよね」「シアワセそうで良いんじゃない」


「ははおやが死んだ時に何を考える?悲しい/悔しい/寂しい/嬉しい、ぶっちゃけどれ取ったって何かが変わる訳じゃないんだよニンゲンは賢くなりすぎた。」

その日もハキタメは彼女が来るのを待っていたのだけれど現れた彼女はいつもと違ってなんだか悲しそうな顔をしていたもんだからハキタメは彼女を訳も分からず慰めたかった、けれど口のないハキタメは彼女に話しかけることが出来なくてただただ自分を綺麗にしていく彼女を見ているだけだった。
「わたし、少しは良いこと出来たかな」
それが、ハキタメが聞いた彼女の最後の言葉だった。
彼女はシケイシュウと言うのだそうです、シケイシュウはとても悪いニンゲンなんだそうです、そんなの嘘だとハキタメは泣きました。彼女を連れて行ったニンゲンが憎くて憎くてこのまま消えて無くなりたいと思ったけれど、やっぱり何も出来ないハキタメはただそこに有る事しか出来なかった。


「るーずなニンゲンって大体責められるけどさァ、皆が皆争って必死に働いてみろよ、多分その内ニンゲンの死因は全部が過労死になるんだろうな?」

「ある時男はついに彼女に告白することを決めたけれど服を変えることも何かプレゼントを持って行く事もしなかった、彼女はそんなことを気にはしないだろうと男は思っていたのだ。やはり彼女はいつものように後ろを向いて空を仰いでいて、その白く柔らかい背に向かって男は叫んだ。『あぁルイーズ!私はもう我慢が出来ない、どうか私の愛を受け取って結婚してはくれまいか!』それでも彼女は微動だにせず空を眺めているだけだった。彼は三日三晩叫び続けたが、ついに彼女が振り向くことはなかった。『嗚呼、アァ!どうしてなんだルイーズ!私はこんなにも君を愛しているというのに、これならまだ振り向い嫌よ、と一言で否定してくれた方が良かったのに!』叫んだ男は何処かに走り去り、そして二度と姿を見なかったとさ」
「……それ、何」
「絵本の中の王女に恋をした男の話」


「はえだとかゴキブリを叩き潰すのにはなんの抵抗も無いくせに犬や猫を殺すのには躊躇うだなんて馬鹿馬鹿しい、今度ゴキブリでも飼ってみりゃ良いよ」

どうしてこんな事になったんだろう、ガンガンと響く頭の痛みも無い右膝も止まらない血も気にならなかった(目の、前の、彼ガ。)
笑いながら楽しそうに敵を撃ち殺す彼を眺めながら、僕等はあの時の歌まで忘れようとしていた。(でも、本当、は、きっと何処かで気付いていた)


「こないんだ、青い春なんて来やしない、来るのは憂鬱な夏と自堕落な秋と悲しい冬だけさ、青い春だなんておれにはあんまりにも眩しすぎる」

交差点なのにすれ違ってばっかり。


「なぜそんな事を言うのかって、そりゃゴミだからさ、底辺這いつくばるおれにはオカタイお前等にあべこべ言って困らせるのが唯一の楽しみなんだよ」

箱が届いた、ただの真っ白い段ボールには何故か宛名も何もなくてだのにそれは私の家に届けられている。帽子を目深に被った配達員は無表情のまま判子も貰わずに荷物を渡してきて背後にはトラックも止まっていない(ただ「貴女に荷物です」と囁いた彼の声は何故だか自分を安心させる音色で、)
目の前に置いた箱はそこそこ重さが有るようにも感じられてまるでなにかが目一杯に詰められているかのような?受け取りはしたものの開ける気にはならないそれを部屋の隅に追いやりもう寝ようと思った。
夢を見た、あの箱を開ける自分をただじっと見ているだけの夢で、


「いわせて貰うとおれだって死ぬのが怖いコワイ、ゼロ零になる程嫌なコトはないと思うね。なら気味の悪い説教モドキをたれるなってかそのとォり!でも止めないよ道化だし?」

男はある老婆の枕元に立っていた、彼女は病気にも事故にも見えない所からどうやら老衰で逝くのだろう。
ふと老婆が弱々しく上げた視線が男のそれと合ったとき、一瞬目を見開いた彼女は次にふわりと笑った。(それは、あの、数十年前の、)

「また、会いましたね」
「、ええ」




青い春は来ない





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