9.イチゴイチエ

その男には一度しか会えない。
男には放浪癖があったが仕事がない訳ではなくむしろ何年も何年も何年も仕事をしている内に自分の歳を忘れてしまう位に真面目だった、男はニンゲンではない。
遥か昔、男がまだニンゲンであった頃は彼にも家族というものがあった。そこでも彼は仕事には真面目で家族を愛し、特別罪を犯すわけでもなく(流行りの病で死にはしたが)幸せな人生を送っていたけれど、何らかの定めには逆らえず死して尚も仕事をする羽目になったのだ。
彼は、死神である。
ある時男は二度に渡る人生でたった一度だけ罪を犯した、迎えに行った筈のニンゲンの命を持って帰らなかったのだ。死ぬ直前のニンゲンには白塗りの顔で襤褸に身を包んだ男が見える、そうすると大方のニンゲンは恐怖と諦めの現れた顔をするというのに、だのに床に伏せたあの病気の少女は男に向かって弱々しく笑いかけたのだ。酷く困惑した男はどうして良いか分からずにそのまま帰り上司に怒鳴られ、そうして少女の死は先伸ばしになった。



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