1:会話

「ねぇ」
「…………」
「ねぇちょっとまちなさいよ」
「私の事?」
「あたりまえじゃないの他に誰がいて?」
「当たり前もなにも、貴女は私を呼ぶ必要はないでしょう?」
「どうしてよ」
「だって貴女は私でしょう? 私は貴女でしょう?」
「なに言ってるの、わけわからないわ」
「貴女の呼んでいる『私』は『貴女』なのよ」
「じゃあ『貴女』は『私』なの?」
「そう言ってるじゃない、だから呼ぶ必要はないのよ」
「でも『貴女』の方がきれいな服を着ているのよ」
「『貴女』のだって同じ服よ」
「『貴女』の方が高い鞄をもっているのよ」
「『貴女』のだって同じ鞄よ」
「『貴女』の方が良い性格をしてるのよ」
「『貴女』だって同じ性格よ」
「嘘よ嘘よ、『貴女』の方が『私』よりずっと素敵じゃない」
「『私』は『貴女』なのよ、もっと自信を持ちなさいな」



2:A←B(追いかける)

一号車は十号車になれて三号車は八号車になれるけど
二号車は七号車になれないし五号車も九号車にはなれない
N極はS極とくっ付けてS極はN極とくっ付けるけど
N極はN極とくっ付けないしS極もS極とはくっ付けない
そんな感じな訳で
追いかけても追いかけても背中背中背中
素敵な人だけど顔が見れないの
気付いてしまったらもうオシマイ
離れない追いつかない退屈な等速直線運動
半永久的無限ループの終わりはどこにもないのです
不変のそれに私は耐えられなくて
なら脱線してでも止まってしまいましょうか


だって待ち伏せだなんて到底できないんですもの!



3:それは死んでしまいたかったのだ(けれど結局、)

ひゅるりひゅるり、と足元で吹き荒れる風が渦を巻く中、彼女は今まさにフェンスを越え高さ五十二メートルのビルから飛び降りようとしていた。この場には彼女のほかに私しかいない。となると、私が彼女を止めなければならないのだろうか。
「馬鹿な真似はおやめよ、良いことなんてひとつもありゃしない」
「いいえ何を言っても無駄よ。私はもう疲れたの、だから死ぬんだわ」
自殺の止め方だなんてそんな大層ものは習わなかった。一体どうしろというのか。
「毎日あんなにも真面目に働いていたじゃない、突然どうしたの」
「考えてもみなさいよ、私たちが泥まみれになってまで働いたって、結局は全部あの女の為! 私たちは欠片も報われやしないのよ、私は自由に生きたかった。でももう手遅れだから、だからお願い死なせて!」
彼女はさらに外側に踏み出す。
「そんな事したって運命からは逃げられやしないよ、諦めなさいって」
「いやよいや、私は生まれ変わって好きなように生きるの!」
そう叫ぶと、彼女は飛んだ。
ひゅるりひゅるり、彼女の体は加速しながら五十二メートル下の地面へと落ちていく。けれど、いつまで経っても体がぐしゃりと潰れる音はしない。私は下を覗き込んで言った。
「だから言ったでしょう、蟻の体じゃ飛び降りても死ねないわ」
五十二メートル下方から、彼女が悔しそうに呻くのが聞こえた。



4:嘘

愛してる 愛してる 大好きだよ
すぐ戻るから 大丈夫
ここは安全さ 絶対に君を守ってみせるよ
また逢おうな 約束だ
ずっと友達だよ
こっちの方が幸せなんだ
それじゃ また
世界で 一番 君を
愛シテ ル?
(嘘吐き)



09秋/部誌掲載



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