恋足らず



あの夜からもう幾日も経ったけれど、私たちの生活は相も変わらなかった。朝ご飯を作り、お弁当を用意して、夜ご飯を作り、夜が更けると同じベッドに入る。休みの日が重なると、セントポプラやプッチへ出かけ、映画を観たり、ディナーに連れて行ってもらったりと、充実した楽しい時間を過ごした。ルーティンな生活は少し味気ないような気もしたが、私たちにはそれがちょうどお似合いだったのだ。それでもやはり、

「好きじゃ、なまえ」

熱を帯びて、甘い感情が含まれているようなその言葉は、いつまでも私の中から消えることはなかった。

「『愛の言葉』は口にするとたちまちその効力を失う。」そんな文章をどこかで見かけたな、とふと思い出す。私たちのこの関係もそれの一種なのかもしれない。

「まーた難しい事考えておるんじゃろう、怖い顔しておるぞ」
「…明日のお弁当、何にしようか悩んでたんですよ」
「おお、じゃあからあげ弁当をリクエストしようかのう」
「ええー、からあげ弁当は一昨日作ったでしょう」
「そうじゃったかな、なまえの作る飯はいつもうまいからなァ、つい忘れてしまうんじゃ」
「なんですかそれ、」

お互いにくつくつと肩を揺らして、私は布団にもぐりこんだ。次いで、カクさんも隣へ移動してくる。「おやすみ」「おやすみなさい」顔を合わせて瞼を閉じる。傍らの体温がとても心地よくて、私はそれ以上考えることをやめた。

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アクアラグナの嵐の夜、業火の中で見た真っ黒な彼に、私はついに言う事のなかった「愛の言葉」を口にした。彼にそれが届いたのか、彼はただ口元に人差し指を当てて、あの頃と変わらない、優しい笑顔で微笑みながら、夜の闇へ消えていくのだ。


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