「いい年してお酒に呑まれるだなんて」

私をぎゅうっと抱きしめる彼からはお酒と香水の混ざった匂いがする。この香りはいつだって気持ちをふわふわさせてしまう。
酔っ払いは嫌いだった。お酒に身を全て任せてしまうほどの若さはもうお互いないというのに。

遡ること数時間前。アイスバーグさんと秘書代理の私はある企業のセレモニーに出席していた。アイスバーグさんに釣り合うように頑張ったドレスとメイクはなかなか自分でも自信があった。「似合ってる」と微笑んでくれた彼はそれはもう素敵で。しかしながらセレモニーで出されていたお酒はなかなか強めのものだった。のちにそれはセレモニー主催者の趣味であったことが分かったのだが、アイスバーグさんはお酒と気が合った主催者側と二次会に行ってしまったのだ。そうして部屋へ戻ってきた時には歩くのもままならない状態だった。

スーツを着れば市民の憧れる市長に。作業着を着れば職人たちを圧倒させる社長に。女性で言うところの「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」のような男性だった。どんな問題が起こっても冷静に解決する彼が時折見せる豪快な性格が私は大好きだったのだ。

「お水飲んでください、きっと酔いも醒めます」

腕に力を込めて胸を押し返した。出来るなら彼のこんな姿は見たくなかった。私の憧れの存在のままでいてほしかったのに。そんな私の気持ちも知らないで彼は今度は後ろから抱きしめてくる。そしてそのまま首筋に歯当てられて、思わず吐息がこぼれる。

「…酔ってやっていいことと悪いことがあります」
「こういうことはしちゃいけねェのか」
「だめです」
「なんで」
「アイスバーグさんとはそういう関係じゃないからです」
「じゃあそういう関係になればいいだろ」
「酔ってても屁理屈って言えるんですね」

緩んだシャツとネクタイ。お酒を飲んだ時特有の瞳。少しほてった頬。普段見られない姿は貴重で心揺すられるものだったが認めたくないと言う自分もいる。

「酒の力を借りねェと言えない、出来ないこともあるもんだ」

体の向きを変えられてまた彼の胸の中に戻ってしまった。そうして今度は口にキスされた。ここまでくればもう思考停止状態。ベッドに縫い付けられる体をただ彼に預けるしかない。私はこうしてまた同じ失敗を繰り返すはめになるのだ。


150416
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