とても涼しい朝だった。ベッドに散らされた寝巻きと、カレンダーの余白に書き殴られた字が、彼の慌ただしい朝の様子を連想させる。「帰ったら食べに行こう」そうか、今日は記念日だった。肌寒くて布団からなかなか抜け出せなかったため気付いた。布団から葉巻の匂いがする。遅刻してないといいけど。脱ぎ散らかされた寝巻きを畳んであげた。香りが強くなる。私は葉巻とか煙草とかの匂いは好きじゃなかったのになあ。

「おい」

窓辺から低い声がした。顔と声に釣り合わないタンクトップとサスペンダー。ああ、もう5年も経つのね。

「今日作戦を実行する。腹くくっとけ」

もうこの海と葉巻の香りを二度と感じることは出来ないのだろう。早起きすればよかった、顔を一目でも見ておけばよかった。後悔ばかりが頭をよぎる、とても涼しい朝だった。


150702
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