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hank you




睡眠はバッチリ。
朝ご飯もちゃんと食べた。
本日の天気は雨。

絶好のお出掛け日和ですね。

人気がないのをいいことに傘をクルクルして浮き足立った足取りで道を行く。
雨は強くもなければ弱くもなく、ぶ厚い雲が日の光を大きく遮っていた。
心なしか薄暗さを感じる。
それがとても嬉しくて、浮かれていた。
浮かれていた。

パシャリと小気味良い音を立てて私は水溜まりに踵を突っ込んだ。
微妙に跨ぎきれなかったというよりは、そもそも水溜まりに気付いていなかった。
跳ねるように2、3歩先に進んでから右足を上げて様子を見る。
幸いにして思い切り突っ込んだ訳じゃないからか、若干踵が被害を受けただけで大したことはなかった。



『んんんん……気をつけなきゃ』



そうは思うが、浮かれてしまうのは仕方ないと思うのです。

私は生まれつき、陽の光がダメだった。
眩しい、で済まないのだ。
陽の光に当たると気分が悪くなって動けなくなってしまう。
だから、日が暮れてからじゃないと外に出れない。
もしくは、厚い雲が掛かって雨が陽の光を遮るような今日みたいな日でなければ。

厄介なのは、私は人一倍昼の時間に憧れていることだ。
だから、夜に篭るだけでは満足しないし、こうして外に出たがる。
実は、黒主学園に来てから昼間に街に出るのは初めてだ。
それも1人で。
敷地内はたまに散策していたのだが、まあ、どうなっていたのかは想像に難くないだろう。

今日のことは、理事長と寮長にしか話していない。
誰かと一緒に行くべきでは、と2人に心配されたが、迷惑掛けるのは嫌だったから大丈夫ですと押し切って来た。
だからこそ、今日の天気が分かった日から体調を整えて万全の状態で今日を迎えたのだ。

お陰様で気分は上々、体調も良好。
足元に気をつけながらも、依然として足取りは軽く。
厚い雲のせいでどこか薄暗いが、私の心はとても晴れやかだ。

さて、今日はどんな1日になるだろうか。





***


『………』



結論から言うと、ダメでした。



途中までは良かったのだ。
ブラブラとウィンドウショッピングして、少しだけ買い物をして、カフェでのんびりランチをして、またブラブラと別の道を歩いて帰途につこうとしていた。
その最中、不意に雨が止んでしまうという悲劇に見舞われた。
どこか近くのお店に避難しようとした矢先に、動けなくなってしまったのだ。

そうして道端で蹲って死んでた私を救ってくれたのが、偶然通り掛かった守護係の2人だった。
理事長に連絡してくれて、私をイスのあるところまで連れて行ってくれた。
後で2人には何かお礼をしなきゃ……。



で、現在はというと。
吸血鬼ハンターで現在夜間部の臨時講師をしている夜刈さんの膝の上にいます。

何でこうなったのか、知ってるけど分からない……。

迎えの車に乗り込んだ私が窓に凭れ掛かるようにしていたら、唐突に反対側に引き寄せられてそのまま夜刈さんの膝の上に頭を乗せられまして。
悲しいことに、1度伏したら起き上がることも出来なくなってしまっていましてね。

何だろうこれ……よく分からない……。

というかこの人私達のこと嫌いじゃなかったっけ……。
単に寮長と険悪なだけなのかな……。
それにしたってこの状況は割と意味が分からないんだけど。
そもそも何でこの人なんだろう……。

考えてもよく分からないし、分かる気もしないので、少しだけ頭をズラして夜刈さんの顔を覗き見る。
目が合ったついでにそのまま瞳をじっと見てみれば、思いの外透き通った色をしているのに気付いた。
まあだから何だって話なんだけど。



「着いたら起こしてやるから少し寝てろ」



その言葉と共に、視界が遮られた。
まあ確かに、起きていても大した得はないから良いんだけど。
何か、本当に何なんだろう……。





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