※死ネタ



ゆっくりと地面を踏む。
ボンゴレ屋敷のほんの少し奥まった場所に、この時期になると真っ赤な絨毯を作る場所がある。少し背の高い茎の上にいくつもの赤い花をつけるそれは数年前に俺が植えたものだ。
その真ん中、ほんの少しだけ花の無い場所には、彼の墓石がある。無理を言って、墓石を立ててその中に火葬した残骸を埋葬した。
彼はきっと、死してもこの場所に居たいだろうと思った。死者に声は無い。俺のエゴ以外の何物でもない。

10月10日、今日は彼の誕生日だ。
命日でもないし、Festa dei Morti(死者の日)でもないから、お墓には誰の姿も無かった。

真っ赤な絨毯を踏みわけて俺は墓石に近付いた。花の影になったそれは、けれど生前の彼の様に堂々と存在していた。
墓石には白いマドンナリリーが供えてあった。時期には少し遅いが、今の時代温室育ち時期外れの花など街中で見かける。俺よりも早い時間に来たのは誰であろうか。

「久しぶり、」

しゃがんで一度手を合わせて、墓石に話しかける。

「今年も綺麗に咲いたでしょ。お前の目と同じ緋色の花」

少し冷たい風が髪を揺らし、花を揺らす。ざわざわと音を立てて通り過ぎるそれは彼が俺の言葉に答えてくれているように感じた。

「そうそう、最近は俺の誕生日パーティのことでバタバタしてて全然まともな食事も摂れないんだ。飲みにも全然行けてないし、ほんと嫌になるよ」
「お前が居た時は無理して抜け出したりもしたけど、俺今はほんと真面目にボスやってるんだよ」
「あ、信じてないだろ?」

ふいに人の気配がして振り向くと、黒いスーツに身を包んだ優しい笑顔があった。
フワフワの金髪を撫でつけて、黒いタイをして。端正な顔に微笑みを乗せて。彼の古馴染の男が立っていた。

「よぉツナ!お前も来てたのか」

真っ赤なバラの花束を抱えたその男。供えるのにバラ…と小さくため息を吐くと、男も苦笑してその花束を墓石に供えた。白い花の隣に赤い花。なんだかおめでたい配色だ。

「ユリを供えたのはディーノさんじゃなかったんですね」
「ん?ああ、多分スクアーロじゃねぇか?」
「ユリを…スクアーロが…」

白いユリの花言葉は確か…なるほど、彼にぴったりかもしれない。

「でもやっぱ赤だよな、イメージ的に」
「まぁ…そうですよね。あと黒とか」
「黒い花は難しいだろー」

男が笑う。

「ですよね」

俺もつられて笑った。
男はしゃがみ込んで手を合わせた。俺ももう一度手を合わせた。
『どうか、穏やかな日々を。』無言で呟いた。
チラリと隣を見ると、その端正な横顔が苦しそうに歪んでいた。


【くろは】
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