自分の誕生日くらい休みたかったけどそうもいかず。というよりは自分の誕生日は毎年死ぬほど忙しい。
沢田綱吉の誕生日ではなく『ボンゴレX世の誕生日』は予算も爆発的に掛かるし本当は取りやめたいものの一つだけれど、たかが誕生日されど誕生日。せっかくの誕生日は忙しさにかまけているうちにあっという間に過ぎてしまう。
文句タラタラにチラリと顔を見せた恋人であるザンザスはいつの間にか会場から姿を消していて、後で文句の一つでも言ってやろうかとも思ったけれどあの男には何を言っても仕方がないであろうと早々に諦めた。

夜中近くまで解放されずに営業スマイルの大売り出しかというほど笑顔を振りまいて顔の筋肉が痙攣しそうなほど疲弊し自室へ戻ると、自分のベッドである筈のそこには既にでかい図体を遠慮なく横たえた不愉快な男が居た。思わずため息が一つ漏れる。
いつも鋭い眼光を湛えた目元は穏やかにとじられて、掛け布団から出た逞しい腕は傷だらけの素肌を晒している。
一日中バタバタと駆けずり回って疲れた体を休ませる前にシャワーを浴びてこよう。俺は現実を見なかったことにして部屋を出た。

シャワーを浴びてベッドルームに戻ると、やはり現実は現実であったようで自分のベッドは別の男によって占拠されたままであった。肌触りのいいとっておきのパジャマに身を包んで部屋に戻ってきた俺は仕方なくその脇に潜り込む。
いつも冷たいベッドが人肌に温められていて心地良い。ぬくもりを求めて隣の男に擦り寄ると、重たい腕が俺の体を抱きしめるように落ちてきて、その重さも心地良かった。
だめだ、ねむい。ひきずられる。



「…んう、」

なんだか息苦しい。ぼんやりと目を開けるとなんてことは無い、隣に眠る男の胸に顔を埋めているから空気があまり吸えなかったのだ。
眠りに付くときよりも密着度が上がっているが、きっと肌寒かったのか体温が気持ち良かったのか。寝ている間のことだから不可抗力だ。
今何時だろう。腕から少しだけ這い出てみる。分厚い遮光カーテンからは太陽の光は差し込まないから時間が分からない。携帯も少し離れた所に置いてあるし、時計もよく見えない。
俺はなるべく相手を起こさないようにベットからずるりと抜けだして携帯を掴みベッドに腰掛けた。
時刻は6時過ぎ。ああ、もうこんな時間か。
欠伸を一つして朝方の冷えた空気にぶるりと震えた。
と、腰にぬくもりを感じた。逞しい腕が俺の腰に回されて、ベッドを振り返るとまだ覚醒しきらない緋の目がぼんやりとこちらを見ていた。

「ごめん、起しちゃった?」
「んん…」

するりと縋りついてくる腕は力を増して、俺はそれに逆らわずにもう一度ベッドの中へ戻る。
抱きしめるようにずらされた腕に俺も先ほどと同じように胸元に擦り寄った。温かくて安心する腕の中。ゆっくりと打つ心臓の音は自分のものか、それとも男のものか。心地良いリズムで打つそれに耳を傾けて俺はもう一度眠りに落ちた。


【くろは】
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